Infinite Stratos:Re
□第七夜
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◇
「そ、それは本当ですの!?」
「う、ウソついてないでしょうね!?」
月曜の朝、教室に向かっていた俺達……俺、一夏、シャルルは廊下にまで訊こえる声に目をしばたたかせた。
「なんだ?」
「さあ?」
「嫌な予感しかしないんだが…」
別に確証があるわけではない。まァ、勘だな。
「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と碧海君と交際──」
「俺達がどうしたって?」
「「「きゃああっ!?」」」
俺達がクラスに入り、一夏が普通に声をかけると、返ってきたのは取り乱した悲鳴だった。
「……結局なんの話だ? 俺の名も出てたよな?」
「う、うん? そうだっけ?」
「さ、さあ、どうだったかしら?」
鈴とセシリアは、あはは、うふふ、と言いながら話を逸らそうとする。
「じゃ、じゃあ、あたし自分のクラスに戻るから!」
「そ、そうですわね! わたくしも自分の席につきませんと」
どこかよそよそしい態度で二人はその場を離れていく。その流れに乗ってなのか、集まっていた女子達も同じように自分のクラス、席に戻っていった。
◇
(な、なぜ、このようなことに……)
教室の窓側列で、箒は表面上は平静を装いつつも、心の中では頭を抱えていた。
原因はトーナメントの噂。
『学年別トーナメントの優勝者は織斑一夏、碧海涼夜と交際できる』
多少の違いはあれど、要はそういう噂だ。
(それは私と一夏だけの話だろうっ!)
現実にはほとんどの女子が知っているらしく、さっきも教室にやってきた上級生が『学年が違う優勝者はどうするのか』『授賞式での発表は可能か』などとクラスの情報通に訊きにきていた。
(まずい、これは非常にまずい……)
しかも、一夏だけでなく涼夜まで巻き込んでしまっている。
(と、とにかく、優勝だ。優勝すれば問題ない)
そこでふと噂について考える。
(一夏と涼夜の二人と交際……?)
自信の右手を左手で握り、右手に刀を構える一夏。
反対では箒の左手を右手で握り、左手で銃を構える涼夜。
(……)
それを考えた瞬間、箒は顔を真っ赤にした。
◇
「…………」
廊下を本を読みながら歩く。
「なぜこんなところで教師など!」
「やれやれ……」
俺は普段からちょくちょく本を読む。工学についてだったり、普通の物語だったり、料理本だったり。
今読んでるのは以前ナイフを届けた際にパラケルススが貸してくれた医療に関する本だ。
「何度も言わせるな。私には私の役目がある」
「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」
何でも『少しは自分で治せるようにしとけ』、らしい。
お前医者だろ、と言ったら『お前は怪我の頻度が多いんだよ、いつか本当に死ぬぞ。……それにお前さんなら出きるだろ』と言われてしまった。
まァ、俺自身は知識を増やすことに異論はない。けどさ……。
「難し過ぎるだろ……これ」
人体の構造は大方理解してるし、応急処置等も頭に入っている。
しかし、それと医者の治療は別物だ。
「「…………」」
「あ?」
横を見ると織斑先生とボーデヴィッヒがこちらを見ていた。
……やべェ、俺もしかして空気読めてない?
「……あー、なんか邪魔したようでスイマセン」
「……いや、構わん。しかしお前は医者を目指していたのか?」
集中し過ぎて周りが見えなくなるのは悪い癖だな……。
「そういうわけではないです」
「それにしては随分と本格的な本を読んでるじゃないか」
「……これは知り合いの医者に──」
「教官! なぜこんなところでこんな奴に指導をしているのです!」
ボーデヴィッヒに切られた。
いや、別にいいけどさ。
「やれやれ……」
ボーデヴィッヒの言葉に溜め息をつく織斑先生。
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」
「ですから、このような極東の地で何の役目があるというのですか!」
……やはりラウラ=ボーデヴィッヒにとっての絶対的な存在だな、織斑先生は。
「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」
「ほう」
「大体、この学園の生徒など教官が教えるにたる人間ではありません」
「なぜだ?」
「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに教官が時間を割かれるなど──」
「言わせてもらうが、それが普通だ」
大体、ISを軍事関係に使っているのが偉いとでも思ってそうな言い方だが、そんなの別に偉くもなんともない。
「なっ!?」
割り込んだ俺に対して敵意と殺意が入り交じる視線を向けるボーデヴィッヒ。
「そもそも人としてのレベルを見るならお前は下の下だろ。偉そうに語るな」
「きッ、様!! 自分が優秀だと! 選ばれた人間だとでも言いたいのか!?」
「そうだな」
「!?」
質問の答えに驚愕するボーデヴィッヒ。
ボーデヴィッヒの質問に答えたのは俺ではなかった。
答えたのは、ボーデヴィッヒが尊敬し、親愛する織斑先生だった。
「お前より、まだ碧海の方が見所がある。身の程をわきまえろ」
「きょ、教官……」
ボーデヴィッヒの瞳に映るのは恐怖。織斑千冬に嫌われるという恐怖。
「冗談はやめてほしいですね、織斑先生」
俺が優秀? 選ばれた人間? そんな筈がない。
「私は本気だが?」
「俺が本当にそんな人間なら──」
──大切なものの一つや二つ、護る力くらいあった筈だ──。
「……そろそろ教室に戻ります」
俺は今の……泣きそうな自分の顔を見られたくなく、顔を隠すように早足でその場を離れた。
◇