Infinite Stratos:Re
□第九夜
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◇
「んァ?」
朝。
窓から溢れる朝日により、少しばかり意識が覚醒した俺は疑問抱く。
体がやけに暑い。
体温が上がってるようだ。
これだけなら、風邪でも引いたか? で済むのだが、現実は厳しい。
どう考えても抱き締められている。それも女に。
何で判るのかって?
横腹に当たってんだよ。女性特有の膨らみが。
……落ち着け、俺。
ここでテンパったら先月と同じだ。
冷静になれ。
そうだ。
これは夢なのかもしれない。
いつだかに、パラケルススが俺に対して欲求不満気味と言っていたし。
…………。
自分で想像しておきながら自己嫌悪に陥った。
欲求不満が夢にまで顕れるとか……ドン引きするっつーの。
「…………」
覚悟を決める。
三。
二。
一。
ガバッ……そんな音が訊こえる勢いで布団をめくる。
「ら、ラウラ……!」
そこには、何故か衣服を纏っていないラウラ=ボーデヴィッヒがいた。
身に付けているのは左目の眼帯と待機状態のIS──右太股の黒いレッグバンドのみ。
長い銀髪が腰のラインを撫でている。
「ん……。なんだ……? 朝か……?」
俺は何も言わず布団をもとに戻す。
「……なぜ服を着ていない?」
「おかしなことを言う。日本ではこういう起こし方が一般的だと聞いたぞ」
ひょこっ、と布団から顔を出したラウラは一度目をこすり、いつもと同じ顔立ちになる。
「一体誰に訊いたんだ……?」
「しかし効果はてきめんのようだな」
「あ?」
「目は覚めただろう?」
「……おかげさまで」
皮肉に気づかずに、だろう、と得意気に言うラウラを一瞥した俺は呆れながら洗面所に向かう。
「服着とけよ?」
返事はなかったが、衣擦れの音が訊こえるので、従ってくれたようだ。
顔を洗いながらふと考える。
俺、この学園に来てからペース乱されっぱなしだな……。
◇
時間は過ぎ、場所は食堂。
俺の隣にはラウラが座っている。
……二人なら向かい合って座るもんだと思っていたが……。
まァ、いいか。
ちらりとラウラを見ると、パンとコーンスープ、チキンサラダを食べていた。
食堂を使いはじめて結構経つが、本当にたくさんの料理があるな。しかも、どれも美味しいと来た。
レシピを訊いてみたいな。
「ん、欲しいのか?」
俺の視線に気付いたラウラが、わけてやろう、と言って自分の口にパンを持っていく。
「…………」
「ん? どうした、かじっていいぞ?」
「いや、いらないから。自分で食べていい」
「遠慮することはない」
そう言ってなおも迫ってくるラウラの額に、トン、と人差し指と中指を当てる。
「遠慮なんかじゃねェよ。ちゃんと食わないと一日が辛くなるぞ」
俺が言い、自分の分の朝食を再び食べ始めると、漸く諦めたのか、食事再開するラウラ。
「わああっ! ち、遅刻っ……遅刻するっ……!」
珍しい声が訊こえた。
ばたばたと忙しそうに食堂に駆け込んできて、余っている定食から一番近くにあったものを手に取る。
「シャルロット」
「あっ、涼夜。お、おはよう」
「おゥ」
シャルロットがこんな時間に来るとは珍しい。それは本人の焦りようを見れば判る。
今からでは急いで食べないと遅刻だからな。
「珍しいな。寝坊でもしたか?」
「う、うん、ちょっと……その、寝坊……」
俺の正面のシャルロットがどこか気まずげに答える。
「へェ……」
「その……二度寝しちゃったから」
食べるのに忙しいからか、妙に歯切れが悪い。
いつもよりハイペースで朝食を食べるシャルロットを見やる。
箸の使い方は大分上達したようだ。
教えた甲斐があった。
「りょ、涼夜? ずっと僕の方を見てるけど、どうかした? ね、寝癖でもついてる?」
「箸の使い方が上達したな、と。ついでに女子の制服のシャルロットは新鮮だな、と」
「し、新鮮?」
「あァ、よく似合ってる」
褒められていないのか、シャルロットはボッと顔を赤くする。
「……と、とか言って、夢じゃ男子の服着せたくせに……」
「あん?」
夢?
何の話だ?
「な、なんでもないっ! なんでもないよっ!?」
ぶんぶんと突き出した手を振って否定すると、シャルロットは再び朝食に手を戻す。
「う!?」
水に手を伸ばそうとした俺の脇腹に衝撃が走る。
「お前は私の嫁だろう。私のことも褒めるがいい」
犯人はラウラだ。
こいつ肘打ちしやがった。
「お前なァ……」
自分から褒めろって言ってから褒められても嬉しくないだろ。
「……何度か褒めてるだろ」
「…………」
俺の言葉を訊いても、不満です、と瞳が語ってくる。
「そんな眼をしても駄目だ……。我が儘言わないでくれ」
言い聞かせるように頭を撫でてやる。
「……わかった」
少し赤くなりながらも聞き分けてくれたラウラ。
シャルロットがジト目でこちらを見ているが。
キーンコーンカーンコーン。
不意に予鈴がなったが、俺達の動きは速かった。
それはまさにBダッシュ。
今日は織斑先生のショートホームルームなのだ。
遅れたらどうなるか判らない。冗談抜きで。
◇