Infinite Stratos:Re

□第九夜
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「んァ?」


 朝。
 窓から溢れる朝日により、少しばかり意識が覚醒した俺は疑問抱く。
 体がやけに暑い。
 体温が上がってるようだ。
 これだけなら、風邪でも引いたか? で済むのだが、現実は厳しい。
 どう考えても抱き締められている。それも女に。
 何で判るのかって?
 横腹に当たってんだよ。女性特有の膨らみが。
 ……落ち着け、俺。
 ここでテンパったら先月と同じだ。
 冷静になれ。
 そうだ。
 これは夢なのかもしれない。
 いつだかに、パラケルススが俺に対して欲求不満気味と言っていたし。
 …………。
 自分で想像しておきながら自己嫌悪に陥った。
 欲求不満が夢にまで顕れるとか……ドン引きするっつーの。



「…………」


 覚悟を決める。


 三。


 二。


 一。


 ガバッ……そんな音が訊こえる勢いで布団をめくる。



「ら、ラウラ……!」


 そこには、何故か衣服を纏っていないラウラ=ボーデヴィッヒがいた。
 身に付けているのは左目の眼帯と待機状態のIS──右太股の黒いレッグバンドのみ。
 長い銀髪が腰のラインを撫でている。


「ん……。なんだ……? 朝か……?」


 俺は何も言わず布団をもとに戻す。


「……なぜ服を着ていない?」


「おかしなことを言う。日本ではこういう起こし方が一般的だと聞いたぞ」


 ひょこっ、と布団から顔を出したラウラは一度目をこすり、いつもと同じ顔立ちになる。



「一体誰に訊いたんだ……?」


「しかし効果はてきめんのようだな」


「あ?」


「目は覚めただろう?」



「……おかげさまで」


 皮肉に気づかずに、だろう、と得意気に言うラウラを一瞥した俺は呆れながら洗面所に向かう。


「服着とけよ?」


 返事はなかったが、衣擦れの音が訊こえるので、従ってくれたようだ。
 顔を洗いながらふと考える。
 俺、この学園に来てからペース乱されっぱなしだな……。













 時間は過ぎ、場所は食堂。
 俺の隣にはラウラが座っている。
 ……二人なら向かい合って座るもんだと思っていたが……。
 まァ、いいか。
 ちらりとラウラを見ると、パンとコーンスープ、チキンサラダを食べていた。
 食堂を使いはじめて結構経つが、本当にたくさんの料理があるな。しかも、どれも美味しいと来た。
 レシピを訊いてみたいな。


「ん、欲しいのか?」


 俺の視線に気付いたラウラが、わけてやろう、と言って自分の口にパンを持っていく。


「…………」


「ん? どうした、かじっていいぞ?」


「いや、いらないから。自分で食べていい」


「遠慮することはない」


 そう言ってなおも迫ってくるラウラの額に、トン、と人差し指と中指を当てる。


「遠慮なんかじゃねェよ。ちゃんと食わないと一日が辛くなるぞ」


 俺が言い、自分の分の朝食を再び食べ始めると、漸く諦めたのか、食事再開するラウラ。


「わああっ! ち、遅刻っ……遅刻するっ……!」


 珍しい声が訊こえた。
 ばたばたと忙しそうに食堂に駆け込んできて、余っている定食から一番近くにあったものを手に取る。


「シャルロット」


「あっ、涼夜。お、おはよう」


「おゥ」


 シャルロットがこんな時間に来るとは珍しい。それは本人の焦りようを見れば判る。
 今からでは急いで食べないと遅刻だからな。


「珍しいな。寝坊でもしたか?」


「う、うん、ちょっと……その、寝坊……」


 俺の正面のシャルロットがどこか気まずげに答える。



「へェ……」


「その……二度寝しちゃったから」


 食べるのに忙しいからか、妙に歯切れが悪い。
 いつもよりハイペースで朝食を食べるシャルロットを見やる。
 箸の使い方は大分上達したようだ。
 教えた甲斐があった。


「りょ、涼夜? ずっと僕の方を見てるけど、どうかした? ね、寝癖でもついてる?」



「箸の使い方が上達したな、と。ついでに女子の制服のシャルロットは新鮮だな、と」



「し、新鮮?」


「あァ、よく似合ってる」



 褒められていないのか、シャルロットはボッと顔を赤くする。



「……と、とか言って、夢じゃ男子の服着せたくせに……」



「あん?」


 夢?
 何の話だ?


「な、なんでもないっ! なんでもないよっ!?」


 ぶんぶんと突き出した手を振って否定すると、シャルロットは再び朝食に手を戻す。



「う!?」


 水に手を伸ばそうとした俺の脇腹に衝撃が走る。



「お前は私の嫁だろう。私のことも褒めるがいい」


 犯人はラウラだ。
 こいつ肘打ちしやがった。


「お前なァ……」


 自分から褒めろって言ってから褒められても嬉しくないだろ。



「……何度か褒めてるだろ」



「…………」



 俺の言葉を訊いても、不満です、と瞳が語ってくる。



「そんな眼をしても駄目だ……。我が儘言わないでくれ」


 言い聞かせるように頭を撫でてやる。


「……わかった」



 少し赤くなりながらも聞き分けてくれたラウラ。
 シャルロットがジト目でこちらを見ているが。



 キーンコーンカーンコーン。



 不意に予鈴がなったが、俺達の動きは速かった。
 それはまさにBダッシュ。
 今日は織斑先生のショートホームルームなのだ。
 遅れたらどうなるか判らない。冗談抜きで。






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