Infinite Stratos:Re

□第九夜
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 あれ?
 これおかしくね?
 なんで俺はシャルと一緒に試着室にいるんだ?



「シャル……?」


「ほ、ほら、水着って実際に着てみないとわかんないし、ね?」



「いや、ね? って言われても…」


 落ち着け俺。
 クールになるんだ。
 シャルとは風呂まで一緒に入ってるんだ。
 今更じゃないか。
 って開き直んな!
 ……なんか別のことを考えろ。
 あ、そうだ。
 この売り場では女性のみが試着が許可されてるそうだ。
 なんでもそれがウリらしい。
 一度試着された水着は回収してクリーニングされるそうだ。
 これも女性優遇制度だな。



「す、すぐ着替えるから待ってて!」


「おおゥ」


 なんかよく判らないが凄い剣幕だ。


「だ、大丈夫。時間はかからないから」


 言うなり、いきなり上着を脱ぎ出すシャル。


「!?」


 俺は反射的に背を向ける。


「……お、おい」


「な、なに?」


「いや……いいや」


 なんでこんなこてになっているのか訊きたかったが、直接言うのは躊躇われた。













(ううっ、勢いでこんなことしちゃったけど、どうしよう……)


 というのも、こうなったのはシャルロットが追跡者の存在に気づいたからである。
 全てのISは『コアネットワーク』と呼ばれる特殊な情報網で繋がっているため、ある程度の位置はわかるようになっている。
 しかし、位置の特定を避ける『潜伏〈ステルス〉モード』がある。
 専用機持ちの四人が四人とも専用機を潜伏モードにしているのだが、シャルロットは逆にそれでわかったのだった。
 『四人ともが潜伏モードで現在位置がわからない』、ということはつまり『わかられたくない状況にある』ということで、『尾行している』とわかったわけである。
 さすがに軍隊経験者であるラウラもいるので直接視認されるような愚を犯してはいないが、そもそも洞察力に優れたシャルロットにとってはこれくらいの推理は造作もない。


(ん〜……諦めて帰ってくれないかなぁ)


 事情はどうあれ、今は涼夜とふたりきりでの外出──つまりデートである。
 涼夜はどう思っているかはわからないがこの際置いといて、シャルロットは心の底からそうだと主張したいのである。


(で、でも、さすがに同じ個室で着替えはやりすぎたかなぁ……)


 ぼっと顔を赤くしながら、背中越しに涼夜の姿を確認する。
 向こうも大概対応に困っており、頭を掻いたり、腕時計をみたりしている。


(うう……変な子だって思われてないよね……?)


 いくらなんでも異性と同じ個室で仕切り無く着替えているのである。
 しかも一度完全に裸になるのだから、恥ずかしくないわけがない。
 ぎゅっと、胸元のアクセサリ──『リヴァイヴ』の待機形態で、十字マークのついたネックレス・トップ──を握りしめる。


(で、でも、涼夜ってなんだかんだで、かなり鈍いし。これくらいしないと……ああもうっ、勢いでしちゃえ!)


 シャルロットは真っ赤になった顔でそう決意をすると、下着を脱いで脚から抜き取る。
 それを服の上に重ねると、裸の体に水着をまとっていった。


「い、いいよ……」


「お、おゥ……」


 見てもらうために着替えたので当然なのだが、早速涼夜の視線を体に感じてシャルロットは落ち着かなくなる。
 ごまかすように組んだ指をもじもじと動かして、涼夜の感想を今か今かと待ちわびた。


「…………」


 肝心の涼夜といえば、さすがにこんな密閉空間で女子とふたりきり。
 その上で生着替え。更に水着御披露目の三連コンボに困っていた──というより照れていた。


(りょ、涼夜、何で黙ってるんだろう……み、水着が変だったかな? あ、改めて見ると、これって結構大胆な水着だよね……)


 セパレートとワンピースの中間のような水着で、上下に分かれいるそれを背中でクロスして繋げるという構造になっている。
 色は夏を意識した鮮やかなイエローで、正面のデザインはバランスよく膨らんだ胸のその谷間を強調するように出来ているのだった。


「あ、あの、一応もう一つもあって──」


 選んでほしいってそういうことか! と涼夜が焦る。


「待て! それは良く似合っているぞ!」


 このままではまた着替えが始まりそうだったので、涼夜はつい反射的に言ってしまった。



「じゃ、じゃあ、これにするねっ」


「お、おゥ。俺は出るぞ」


 シャルの顔が赤くなっていたが、テンパっていた涼夜は気が付かない。
 引き留められるわけにもいかないので、試着室のドアを開ける。



「え?」


「えっ?」


「ええっ?」


 なんと、ドアを開けた場所に立っていたのは山田先生だった。
 そして、後ろでは状況に気づいた千冬が頭を押さえている。



「何をしている、バカ者が……」


「……俺が教えて貰いたいです」



 涼夜は急激に頭が冷静さを取り戻していくのを感じた。
 次の瞬間、軽いパニックに陥った山田先生の悲鳴がこだましたのだった。







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