Infinite Stratos:Re

□第十夜
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「……ったく」



 歌い終わったとほぼ同時にアンコールを受けたが全力で拒否。
 それに従う連中でもないので、一夏を生け贄にしてやった俺は、席に深く腰掛け目を閉じていた。
 のだが現在進行形でメドレーを歌っている一夏の歌を子守唄代わりに出来るわけがなく……。
 まァ……あれだ。
 寝るに寝れないので、暇を持て余すというか、なんというか。



「海っ! 見えたぁっ!」


 一夏メドレーが終わり、次は誰が歌うか話していた女子だが、トンネルを抜けたところで声を上げる。
 陽光を受けて反射する海面は穏やかで、心地良さそうな潮風にゆっくりと揺らいでいた。



「おー。やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」



 一夏がこちらを振り向きながら言う。


「……釣りがしたいな」


「えー、そこは泳ぎたいだろ」



 泳ぐのも悪くはないんだが。



「いいか、一夏。釣りってのは水面を挟んだ見えない敵とのバトルってヤツだ。しかも魚は生で食っても煮ても焼いても旨くて、酒の肴には──」



「酒の肴には……なんだ?」



 …………。
 海と一夏にばかり目を向けていたが、視線を横にずらす。



「さ、酒の肴には欠かせないって知り合いが言ってました」



 苦しいとは思いながらも、マイクを取りに来ていた織斑先生に返答する。



「知り合いにバーのマスターがいるんです。良かったら紹介しますよ?」


 バシン!


「ッ」


「……そろそろ目的地に着く。全員準備をしておけ」



 マイクを通じて織斑先生の言葉が響く。
 どうやら流せたようだ。
 いや、見逃されたのか?
 頭にワンパンくらったが。
 織斑先生の言葉に全員が従う。指導力は抜群だ。
 言葉通りほどなくしてバスは目的地である旅館に到着。
 数台のバスからIS学園一年生がわらわらと出てきて整列した。



「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」



「「「よろしくおねがいしまーす」」」


 織斑先生の言葉の後、全員で挨拶をする。
 この旅館には毎年お世話になっているらしく、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。



「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」


 歳は三十代くらいだろうか、しっかりしとした大人の雰囲気を漂わせている。
 仕事柄笑顔が絶えないからなのか、その容姿は女将という立場とは逆に凄く若々しく見えた。



「あら、こちらが噂の……?」


 ふと、俺と一夏を見て女将が織斑先生に尋ねる。



「ええ、まあ。今年は男子が二人もいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」


「いえいえ、そんな。それに、いい男の子たちじゃありませんか。しっかりしとそうな感じを受けますよ」


「感じがするだけですよ。挨拶をしろ、馬鹿者共」



 ぐいっと頭を押さえられる俺と一夏。


「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」


「碧海涼夜です。この度はお世話になります」



 ぺこりと頭を下げる。



「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」


 そう言って女将さんはまた丁寧なお辞儀をする。
 相も変わらず気品のある動きだ。


「不出来の弟らでご迷惑をおかけします」



「何で複数系なんですか?」


「黙っていろ、ひねくれ者」


 ひねくれ者!?


「あらあら。織斑先生ったら、ずいぶん厳しいんですね」



「いつも手を焼かされていますので」


「それ、一夏単品ですよね?」


「涼夜兄、五十歩百歩って知ってる?」


 どう意味だ、こら。







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