Infinite Stratos:Re
□第十四夜
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◇
俺とナターシャの二人は、バスの停まる駐車場から少し離れた人通りの少ない所に来ていた。
海から吹く潮風が二人の髪を揺らす。
「それで、話ってなにかしら? 黒いナイトさん」
「……嫌がらせか?」
ナイトと呼ばれる権利などない。
ナイト──騎士は守るための存在だ。
俺は結局護れていない。
「ふふ、冗談よ」
……ったく、質の悪い。
「……あー、そうだ。昨日の今日でもう動いて平気なのか?」
「ええ、それは問題なく。──私は、あの子に守られてたから」
……。
「その“あの子”からの伝言だ。『私は誰も恨んでいない』『再び貴女と飛べる日が来るのを願っている』……だそうだ」
「!? それは!?」
その言葉にどれだけの想いが込められていたのかは判らない。
「……確かに伝えたぞ」
それだけ言うと背を向けて歩き出そうとする。
「……待って」
俺の手を後ろからナターシャが掴んだ。
ナターシャ自身なにを言えばいいかは解らなかった。ただ、半ば反射的に掴んでしまった。そんな雰囲気だ。
「……あいつは優しかった」
振り返らずに言う。
「……ええ。あの子は私を守るために、望まぬ戦いに身を投じた……」
「そうだな。けどさ。──あいつ、最後は笑ってたぜ?」
自分を責めるように口を開いたナターシャの顔が驚きに染まる。
その様子が見なくても感じ取れた。
「笑って……?」
「あァ」
悲しそうで寂しそうだったが、それでも笑顔だった。
嬉しそうにお礼を言った少女を、俺は思い浮かべる。
その直後、ナターシャに後ろから抱き着かれた。
「っ! なんのつも──!?」
問いただそうとして……はやめた。
何故なら、後ろに抱き着いてきた女性は震えていたから。
声は漏れていない。それでも確かに濡れていたから。
それが一瞬振り向いた視界に入ったから。
「あり、が、とう……」
ナターシャは泣いていた。声も出さず、ただ静かに涙を流して。
「……」
俺はただ黙って背中を貸す。
かけるべき言葉を知らないから。
それでも。
それが少しでも誰かの悲しみを和らげることができるなら、それくらい構わない。
そう思ったから。
◇