Infinite Stratos:Re
□第十四夜
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◇
「私は、あの子をあんな目に合わせた元凶を許せなかった……。何よりも飛ぶ事が好きだったあの子が、翼を奪われたのが。私は復讐したい……そう言ったら貴方は止めるかしら?」
「止めるさ。綺麗事だろうがな」
綺麗事で済むなら、それが一番いい。
何故ならばそれが“綺麗”なのだから。
「って言ってみたが……さて、どうだろうな」
その言葉にナターシャは目を見開く。
「……意外ね。白いナイトさんは確実に止めると思ったのだけど……」
「あいつは止めるさ、確実に。……けどさ、どうにもならないくらい赦せないことってあるだろ」
例えば誰か大切な人を殺されたとして。
『復讐はイケないことです。やめましょう』と言われて納得出きるだろうか?
憤怒や憎悪の感情をどこにもぶつけられない──それは凄く残酷なことだ。
「まァ、復讐しても現実は変わらないし。ましてや大切なモノが生き返ることもない。要は気晴らしだろ? それでもやんなら勝手にしろよ」
「……冷たいのね」
俺の言ったことは正論のはずだ。
気晴らし。
復讐とは正しくそれだ。
仮に復讐を遂げても、変わるとしたら復讐者 自身の心境と環境。
だが心境がプラスになることは滅多にない。
「言ったろ? 俺は騎士じゃない。故に優しくもない」
騎士は優しい。
なんて極論だろうか、と内心突っ込みを入れながら言った。
「あら、私は冷たいとは言ったけど、優しくないとは言ってないわよ?」
「ほとんど同義だろ」
「違うわよ」
数十秒に渡り睨み合い……と言ってもそんなに物騒なものではないが。
折れたのは俺だった。
「……もういい。俺はバスに戻る」
そろそろ時間だ。
「そう。いろいろありがとね」
「礼を言われることはしてない」
「したわよ。少なくとも三つ」
一つは私の心を救った。
一つは私が復讐しようとするのを止めようとした。
一つはあの子の心を救った。
それを訊いた俺は露骨に顔を歪める。
「止めようとしてねェし、救えてもいねェよ」
「あれはどう考えても止めようしてるわよ?」
「…………」
「……それに、あの子は間違いなく貴方に救われたわ。断言できる」
そうでなければ最後に笑顔になれるはずがない、とナターシャは思う。
「……そゥ」
俺は後ろから一定の距離を保ちながらナターシャが着いてくるのを感じながら、バスに向かい歩みを進める。
◇
「──どこまで着いてくる気だ?」
バスはもうすぐそこだ。
出入口の前で織斑先生がこちらを睨んでいる。ついでに言うと山田先生はオロオロしていて、バスの中から多くの視線を感じる。
「ん? まだ貴方にお礼をしていないでしょ?」
「礼をされるこてはしていない。アレはただ運び屋の真似事をしただけだ」
「運び屋なら余計に報酬がいるでしょう?」
確かにそうかもな、と返す。
実際、運び屋に依頼をするなら普通は報酬が必要だ。当然、運び屋に限ったことではないが。
「言葉を届けるのが依頼だった。なら報酬も言葉で充分だ」
俺は既にナターシャから“ありがとう”という名の報酬を貰っている。
そんな会話をしているうちにバスの前、織斑先生のすぐ近くまで来てしまった。
「黒いナイトさん」
「おい──」
言われ、文句を言おうと振り向いた途端に、柑橘系のコロンの香りが近づき──頬にナターシャの唇が触れた。
「ちゅっ……。これがお礼よ」
「あ──は?」
その行為を認識するにつれて赤くなるのが判る。
「言葉を運んで言葉の報酬じゃ割に合わないでしょ? ……唇同士はまた今度ね」
そう言ってイタズラっぽく笑うナターシャに、一層鋭くなる織斑先生達の視線。
耐性がつきはじめ、キスされた部位が頬だったこともあり、俺も赤い顔でありながら、ハッ、と笑う。
「──まいどあり」
そう言ってバスに乗り込んで行く俺に、またね、と手を振るナターシャ。
「不埒者め」
「涼夜ってモテるねえ」
「本当に、行く先々で幸せいっぱいのようですわね」
「何を話していたのか詳しく説明してもらおうか」
一仕事終えた俺を待っていたのは、そんな辛辣な言葉だった。
◇