Infinite Stratos:Re

□第十四夜
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「私は、あの子をあんな目に合わせた元凶を許せなかった……。何よりも飛ぶ事が好きだったあの子が、翼を奪われたのが。私は復讐したい……そう言ったら貴方は止めるかしら?」



「止めるさ。綺麗事だろうがな」


 綺麗事で済むなら、それが一番いい。
 何故ならばそれが“綺麗”なのだから。



「って言ってみたが……さて、どうだろうな」



 その言葉にナターシャは目を見開く。



「……意外ね。白いナイトさんは確実に止めると思ったのだけど……」



「あいつは止めるさ、確実に。……けどさ、どうにもならないくらい赦せないことってあるだろ」



 例えば誰か大切な人を殺されたとして。
 『復讐はイケないことです。やめましょう』と言われて納得出きるだろうか?
 憤怒や憎悪の感情をどこにもぶつけられない──それは凄く残酷なことだ。



「まァ、復讐しても現実は変わらないし。ましてや大切なモノが生き返ることもない。要は気晴らしだろ? それでもやんなら勝手にしろよ」



「……冷たいのね」



 俺の言ったことは正論のはずだ。
 気晴らし。
 復讐とは正しくそれだ。
 仮に復讐を遂げても、変わるとしたら復讐者 自身の心境と環境。
 だが心境がプラスになることは滅多にない。



「言ったろ? 俺は騎士じゃない。故に優しくもない」



 騎士は優しい。
 なんて極論だろうか、と内心突っ込みを入れながら言った。



「あら、私は冷たいとは言ったけど、優しくないとは言ってないわよ?」



「ほとんど同義だろ」



「違うわよ」



 数十秒に渡り睨み合い……と言ってもそんなに物騒なものではないが。
 折れたのは俺だった。



「……もういい。俺はバスに戻る」



 そろそろ時間だ。


「そう。いろいろありがとね」



「礼を言われることはしてない」


「したわよ。少なくとも三つ」



一つは私の心を救った。



一つは私が復讐しようとするのを止めようとした。



一つはあの子の心を救った。



 それを訊いた俺は露骨に顔を歪める。



「止めようとしてねェし、救えてもいねェよ」



「あれはどう考えても止めようしてるわよ?」



「…………」



「……それに、あの子は間違いなく貴方に救われたわ。断言できる」



 そうでなければ最後に笑顔になれるはずがない、とナターシャは思う。



「……そゥ」



 俺は後ろから一定の距離を保ちながらナターシャが着いてくるのを感じながら、バスに向かい歩みを進める。











「──どこまで着いてくる気だ?」


 バスはもうすぐそこだ。
 出入口の前で織斑先生がこちらを睨んでいる。ついでに言うと山田先生はオロオロしていて、バスの中から多くの視線を感じる。



「ん? まだ貴方にお礼をしていないでしょ?」



「礼をされるこてはしていない。アレはただ運び屋の真似事をしただけだ」



「運び屋なら余計に報酬がいるでしょう?」



 確かにそうかもな、と返す。
 実際、運び屋に依頼をするなら普通は報酬が必要だ。当然、運び屋に限ったことではないが。



「言葉を届けるのが依頼だった。なら報酬も言葉で充分だ」



 俺は既にナターシャから“ありがとう”という名の報酬を貰っている。
 そんな会話をしているうちにバスの前、織斑先生のすぐ近くまで来てしまった。



「黒いナイトさん」



「おい──」



 言われ、文句を言おうと振り向いた途端に、柑橘系のコロンの香りが近づき──頬にナターシャの唇が触れた。



「ちゅっ……。これがお礼よ」



「あ──は?」



 その行為を認識するにつれて赤くなるのが判る。



「言葉を運んで言葉の報酬じゃ割に合わないでしょ? ……唇同士はまた今度ね」



 そう言ってイタズラっぽく笑うナターシャに、一層鋭くなる織斑先生達の視線。
 耐性がつきはじめ、キスされた部位が頬だったこともあり、俺も赤い顔でありながら、ハッ、と笑う。



「──まいどあり」



 そう言ってバスに乗り込んで行く俺に、またね、と手を振るナターシャ。



「不埒者め」



「涼夜ってモテるねえ」



「本当に、行く先々で幸せいっぱいのようですわね」



「何を話していたのか詳しく説明してもらおうか」



 一仕事終えた俺を待っていたのは、そんな辛辣な言葉だった。







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