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□食べちゃいたいね
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最初は本当に軽い気持ち。
下心なんて微塵もない
子供のような幼い好奇心。
そんな感情が特別なものに
変わるのには、あまり
時間はかからなかった。

素振りでもして
汗をかこうと思い
剣を片手に庭へ向かうと
途中の廊下で
愛しい姿を見つけた。

まだ拾ってきてから
1ヶ月しか経たないが
一生懸命に廊下に
へばりついて雑巾で床を
ごしごしと磨いている。

「景綱」

思わず呼び掛けると
まだ若いその男は振り返り
私に笑いかける。
いつもキツく寄せられた
眉を少しだけ和らげて
整った顔を綻ばせながら
ゆっくり立ち上がると
景綱はいつも通りに綺麗な
お辞儀を披露してくれた。

「おはようございます、輝宗様。晴れやかな朝ですね」

「そうだね。どうだい、そろそろここの暮らしにはなれてきた?」

「はい、お陰様で。皆様には良くしてもらっております」

そう言いながら深々と
頭を項垂れる景綱に
私は思わず吹き出した。
相変わらず固い奴だ。
でもそこがまた良い。
景綱はなぜ笑われたのか
不思議そうに、そして
少し怒ったようにして
私を上目遣いに見ている。

「…何故笑うのです」

「いやいや、ごめんね。景綱があんまり可愛いから」

「かわっ…!?」

「からかってなんかない。本当に可愛いんだよ景綱は」

景綱が反論する前に
釘を刺すように言うと
彼は首まで真っ赤になって
下を向いてしまった。
両手で握りしめられた
雑巾からポタポタと
滴が垂れている。

ああ、ほんと可愛い。
私は口許が上がるのを
押さえられなかった。

私は一歩踏み出して
景綱の赤い耳に唇が
触れるぐらい近付いた。
可哀想なぐらいに赤い。
感染するみたいに私の
体温も上がったような
錯覚を覚える。

「景綱、」

耳元で名前を呼ぶと
大袈裟なぐらいに
その肩が跳ね上がり
次の瞬間には私の顔面に
雑巾が叩き付けられた。

「ぶっ!」

「〜〜…っもう早くどっか行って下さいませ!」

涙目になっている景綱は
私にそう吐き捨てると
どっか行けとか言いながら
自分から逃げるように
どこかに行ってしまった。

残ったのは顔面に雑巾を
張り付けたままの私。
暫くすると雑巾は
ずるずると滑り落ちて
床にべちゃりと落ちた。

しかし露になった
私の顔はこの上なく、
気持ち悪いぐらいに
にやけている事だろう。

「景綱…可愛いなぁ」

これからどうやって
あの堅物を私好みに
育てるか…だな。
楽しくなってきた。







食べちゃいたいね

(お前の心も体も)












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