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□この想いを、どうか
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『小十郎。笛、聞かせて』

貴方が俺の笛を聞きたがるのは
いつも、満月だった。
笛の音色を聞きながら
貴方はいつもどこか
哀しげにその月を見つめる。

(――、誰のことを思っていらっしゃるのですか)

そう考えると胸が傷んだ。
ちくり ちくり ちくり。
針の先で軽く叩かれるような
中途半端な痛み。

(輝宗様…)

想いを笛に込めて
伝えられたなら。
貴方はお優しい人だから
受け入れてくれるだろう。
だけど…だけど―――、

(貴方が今見ているのは、誰?)

俺じゃないんだ、きっと。
こんな気持ちで貴方を
見てしまう自分が恨めしい。
こんな気持ちなんて
早く捨ててしまいたいのに、
貴方に優しくされる度に
決意が揺らいでしまう。

輝宗様の綺麗な瞳の色が
ゆっくりと細められる。
口は緩く弧を描いている。
愛しいから笑うのですか。
輝宗様が思っているお方が
愛しくて笑ったのですか。

(…ああ、)

どうか、一瞬だけでいいから
その微笑みを俺だけに。
お願いだから輝宗様、
小十郎だけを見て下さい。

あまりの苦しさに
息が詰まった。
笛はヒュ、と細く鳴って
もうそれきりだった。
止まってしまった音に
満月を見ていた輝宗様が
視線をゆっくりと
俺にずらしてきた。

ハッとしてもう一度
笛を構え直そうとしたが
輝宗様が素早く立ち上がり
それを制した。

満月のように鮮やかで
美しい輝宗様の眼が
近い距離で輝いている。
すごく、綺麗だ。
見入っていると輝宗様の
冷たい手が俺の頬を
するりと滑った。

「小十郎、愛してる」

どく。
その言葉は凍り付いていた
俺の血液を一瞬で
溶かしてしまった。
どくどくどく。
心臓を動かして、
俺は初めて呼吸をした。

カランと笛が床に落ちる。
その音さえも聞こえない。
じわりじわりと目の前が
歪んでいった。

「泣くなよ、小十郎」

今、俺はこの方の為に
この鼓動を刻みたい。
その言葉が嘘だとしても
俺が誰かの代わりだとしても
構わない。
俺は、輝宗様を愛している。

(――嗚呼、落ちる)

ぽたりと涙が床に滲んだ。
輝宗様は柔らかく笑い
俺を優しく抱き締めて
静かに呼吸をしていた。
俺の右胸でも輝宗様の心臓は
確かに忙しなく働いていた。



「愛しております」



もう笛の音色などでは、
伝えきれないのだ。
















(消してしまわないで)




















切なめのようでラブラブな
輝小が好きです(^ω^)


 
 

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