猫シリーズ

□ちょっと後悔した
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あれから男は
吾輩を抱えて
家まで連れ帰った。
家といっても
少しばかり…いや、
かなり高級そうな
マンションだが。

厳重なロックを解除し
部屋を開く。
男が靴を脱ぐ間に
吾輩は腕から抜け出し
玄関に降り立った。

ふわふわ、もふもふ。

そんな感触が足にして
驚いて下を見ると
真っ白なふわふわの
じゅうたんが部屋に
広がっていた。

(暖かくて気持ち良い)

つい気持ちが高ぶり、
綺麗な廊下を走り抜けて一つの大きな部屋に
飛び出した。
そこはリビングらしく
整理されたキッチンと
シンプルな椅子や机が
並べられている。

そんな中で煩く
大きなテレビだけが
活動していた。
テレビの中では綺麗な
女が裸でなにかを
言っている。

視界の隅でなにかが
小さく蠢いた。
驚いてそれを見ると
ソファからひょっこりと
頭が一つ覗いていた。
男の同居人か。

「政宗様、只今帰りました」

いつの間にか
後ろにいた男が
それに話しかけた。
まさむねさま。
何故様付けなのだろう。
様までが名前な訳でも
なさそうだ。

そのまさむねさまは
もぞもぞと動くと
頭だけをこちらに向けて
優しく笑った。

「小十郎、」

こじゅうろう。
新たな主人である男は
小十郎というらしい。

それにしても驚いた。
同居人というには
女だとばかり考えたが
まだ高校生ほどの
若い男ではないか。

右目には眼帯をして
主人を見る目が
やけに甘く優しい。
家族というわけでも
ないみたいだ。

ふむ、と考えていると
まさむねさまと
はたりと目が合った。
お互いに固まって
数秒の沈黙が流れる。
まさむねさまは
暫く驚いていたが
次に主人を見上げた。

「Ah…小十郎?」

「申し訳ありません、つい」

「つい、じゃねーよ。ったく…」

まさむねさまは
呆れたような笑みを
浮かべていたが
それにはやはり愛情、
というべきものが
溢れていた。
それと、欲情。

「なあ、小十郎。飼いたいか?」

「…はあ、」

ソファから腰を上げて
まさむねさまが
主人に問い掛ける。
その後ろでは変わらず
テレビの中の女が裸で
なにやら悶えている。
主人は溜め息を吐き
机の上のリモコンを
握るとテレビを消した。

一気に再び沈黙が
部屋に落ちる。

「またこんなものを見て…御自分の立場をもっと考えてください」

「Ha!立場もなにも、俺はお偉いさんな親父の息子ってだけだぜ?」

「政宗様が良くとも、小十郎は政宗様になにかあれば輝宗様に合わす顔がございません」

「相変わらず堅い奴だな…まあいい、質問に答えろよ小十郎。飼いたいんだろ?」

「…それは、まあ」

「OK!」

何回かの言い合いの後に
主人がそう答えると
まさむねさまは
にやりと笑った。
その笑みに主人が
びくりと震えたのを
吾輩は見た。

「小十郎、交換条件だ」

「っ政宗様!卑怯です、あっ!」

主人は慌てたように
リモコンを置いて
まさむねさまから
離れようとしたが
次の瞬間にはその体は
大きく傾いて
大きなソファの上に
転がり込んだ。

ギシリとスプリングが
苦しそうに鳴った。

「や…、です…!」

「嫌?朝はあんなに良がってたじゃねえか」

ソファの上では
まさむねさまが
暴れる主人を上から
押さえ込んでいる。
その光景に吾輩は
何故か目眩がした。
主人は涙を浮かべて
必死に抵抗している。

ふと主人と目が合って
吾輩はびくりと
体を震わせた。
主人も同様にびくりと
肩を震わせると
顔を真っ赤にして
いやいやと頭を振った。

そんな主人を見て
吾輩は自分の心臓が
脈打つのを感じた。
なんと艶かしい。
この人は本当に
先程まで吾輩と
一緒にいた男なのか。

「HEY小十郎、猫に見られて感じてんのか?」

「…っ!!」

まさむねさまが
主人の顎を掴み、
無理矢理に向き合う。
それを見ていると
また吾輩が戸惑った。
心がもやもやとして
なんだか落ち着かない。
吾輩はこの感情を
知らない。

とにかく、とにかく
主人を助けなければ。
まずはそれからだ。

吾輩は床に置いてある
ビニール袋から
牛蒡を引きずり出して
未だ葛藤している
主人のもとへ走った。

主人は其に気付くと
まさむねさまが何かを
叫ぶのと同時に
牛蒡を掴み振り上げた。

「調子にのんなァア!」

ばこーん!

派手な音がして
再び二人を見ると
完全に伸びている
まさむねさまと
牛蒡を片手に乱れた
服を直す主人がいた。

主人は咳払いして
吾輩の首元を撫でた。
ああ、気持ち良い。

「ありがとうな…今から飯作ってやる」

まだ熱に浮かされた様な
表情の主人に吾輩は
相変わらず心臓が
煩くて敵わなかった。











ちょっと
後悔した


(吾輩は大変な所に来てしまったらしい)










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