猫シリーズ

□名付け記念日
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次には突然吾輩の
目の前は真っ暗になった。
何事かと思えば
泣いている佐助に
抱き締められていた。

「ねえニャンコ!今のってどう思う!?普通なら『チューだけじゃあお礼にならねえよ!猿飛…いや、佐助…もう俺を好・き・に・し・て?』ってところだよねえ!?俺様もう心が折れそう!でもそんな小十郎さんが好き!」

「…にゃ〜(怖い)」

吾輩を撫で回しながら
喚いている佐助。
主人はよくこんな者と
お隣同士でいられるな、と
吾輩は心のそこから
主人を尊敬した。

その時、ガチャン!と
玄関の音がした。
次にはドタドタとした
数人の足音が響く。
ここからはよく
聞き取れないがなにやら
何人かが叫んでいる。
佐助の目の色が変わり
我輩を抱えたまま
キッチンへと向かった。

そこには主人と政宗様と
赤いハチマキをした
男が騒いでいた。

「政宗様!学校に行かれたのではないのですか!」

「だ〜から!俺は悪くねえよ!幸村がcatを見せろって聞かねえんだ」

「政宗殿!猫は!猫は何処でござるか!」

幸村というらしい男は
しきりに猫猫猫と叫び
床を探し回っている。
その様子を主人と政宗様が
呆れたように見ている。
暫くしてから吾輩の上から
盛大な溜め息が降りた。

「…旦那、猫ならココ」

「むっ!?佐助いたのか!…おぉおなんと可愛らしい!」

幸村は佐助の腕から
吾輩を抱き上げると
「可愛いでござるぅあぁあ!モフモフでござるぅあぁあ!」
とひたすらに叫んで
頬にすりすりすりすりと
火が起こるかと思うぐらい
擦り付けた。

それを見ながら
佐助は申し訳なさそうに
政宗様に苦笑いを浮かべた。

「ごめんね竜の旦那。旦那、モフモフしたもの大好きでさ…多分大将の影響だと思うんだけど」

「いや、構わねえよ…それよりcatは大丈夫か」

大丈夫ではない。
もうすぐ本当に
すりすりされてる場所から
火が出そうな気がする。
ぐったりとしていると
主人がやんわりと幸村を
落ち着かせてくれて
吾輩はやっと解放された。

「申し訳ありませぬ!つい興奮してしまって」

「全くだよ旦那…」

照れながら謝罪する幸村を
佐助が呆れながら見る。

「まあいいじゃねえか。死ぬ気で走ればまだ間に合う」

主人はそう言って
時計を見た後、
政宗様に満面で「ね?」と
笑いかけている。
心なしか頷く政宗様が
汗をかいている。

「じゃあ行くぜ幸村」

「あ、待ってくだされ!片倉殿、この猫のお名前はなんと?」

「名前?ああ、そういやあ決めてなかったな」

「誠でござるか!ならば是非某にお任せくだされぃ!」

「えええ、ちょっと旦那…」

「心配するな佐助!」

幸村は止めようとした
佐助に自信満々に
任せろ、と言うと
吾輩の前にしゃがんで
見つめ始めた。
…真剣すぎて怖い。

「…Hey、幸村」

「決まったでござるぅあああああぁああぁあ!」

政宗様が遅刻するぞと
続けようとした瞬間に
幸村は握り拳片手に
絶叫して立ち上がった。
近所迷惑に違いない。

「で、なにになったの旦那?」

物凄く憂鬱そうに
佐助が幸村に聞くと
待ってましたと幸村は
嬉しそうに叫んだ。

「艶のある茶色の毛はまさにみたらし団子のタレ!だから『みたらし』でござる!」

「お前の好物かよっ!」

「相変わらず酷いネーミングセンスだよね旦那」

「すげえじゃねえか真田!俺はいいと思うぜ」

「俺(様)も賛成!」

さすが主人。
どんな批判の波でも
一言で味方につけるなど
なかなか出来ない。
にしても政宗様と佐助は
単純すぎではないか。

「お前もみたらしで良いか?」

目の前に主人が屈んで
ぐしゃぐしゃになった
毛並を撫でながら聞く。
主人がそれでいいなら
吾輩はそれがいい。
なにも不快はない。
主人の手を甘えるように
舐めると主人が優しく
笑みを浮かべた。

「決まりだな…さぁ政宗様、学校へ」

主人は立ち上がると
笑顔を見てハアハアと
している政宗様に
腹黒い笑顔をぶちかまし
正気に戻らせた。
もう慣れっこらしい。
政宗様と幸村が学校に
死ぬ気で走るのを
吾輩と主人と佐助は
静かに見送ったのだった。



吾輩は猫である。
名は、みたらし。
主人と変態達との日々は
まだ始まったばかりだ。





名付け記念日

(喜んでいいのだろうか)











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