猫シリーズ

□名付け記念日
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吾輩を拾ってくれた
命の恩人である
新たな主人
片倉小十郎
その主人と同居する
眼帯をした若者
伊達政宗

この妙な二人との
同居生活は
2日目を迎えた。

「政宗様!早くしないとまた遅刻してしまわれますよ!」

主人が用意してくれた
座布団の上で寝ていると
大きな罵声に驚いて
目を覚ました。

上半身だけを上げて
何事かと見てみれば
のろのろとシャツの
ボタンを眠たそうに
とめている政宗様に
主人がネクタイを
してやっていた。

「全く、貴方が遅刻すれば誰が叱られると…!」

「Ah、分かった分かった。朝飯は?」

「あ、お握りです。登校中に召し上がってくださ…じゃなくて、話聞いてますか!?」

「いってくるぜ小十郎!」

「政宗様っ!!」

政宗様は笑いながら
バタバタと部屋を
出ていった。
主人はそれを見送ると
深い溜め息を吐く。
はたから見れば
漫才のようだった。

みゃあ、と鳴くと
主人がびくりとして
こちらを振り返る。
目が合った瞬間に
主人はすぐに柔らかな
笑みを浮かばせた。
相変わらず綺麗だ。

「悪いな、起こしちまったか」

大きな手の平が
頭を緩く撫で上げる。
やはりその手は
ほんのり冷たくて
昨日拾われた時と全く
変わらなくて安心した。

それからは朝御飯を
平らげて柔らかな
じゅうたんを
ゴロゴロ転げ回り
堪能していると、
ベランダで洗濯物を
ほしていた主人の
悲鳴が聞こえた。

慌ててそちらに走ると
ベランダの入口で
一人の男が主人の上に
跨がっている。

「おはよ、小十郎さん♪」

「猿飛…っ!ちゃんと玄関から入って来いって何度言ったら判る!」

「だって玄関から入ろうとしたら入れてくんないし。それにお隣同士じゃん♪」

「だからって…っ」

「おっ?猫飼い始めたんだ?俺様は猿飛佐助!よろしくね」

吾輩に気付いたらしく
佐助、と名乗った
男はニコニコと
嬉しそうに笑いながらも
主人の首筋を手で
ゆっくり撫でている。
主人はその手を素早く
掴むと佐助を思い切り
蹴り飛ばした。

ギリギリ避けたらしく
佐助はバランスを
崩す事なく主人から離れ
残念そうに肩を竦めた。

「ちぇ、やっぱ二度目は簡単にはいかないか」

「当たり前だ!くそ、油断も隙もねえ奴だな」

「でも、気持ち良かったよね?」

「…!」

主人は顔を青くしたり
赤くしたりしたが
ついには怒りで顔が
真っ赤になり佐助が
「あ、やば」と
呟いたのが聞こえた。

「ブッ殺す!」

主人はそう吠えると
佐助に飛び掛かる。
しかしそれもひらりと
避けられる。
それにまたイラついたのか
主人の顔は完全に
893顔と化していた。
流石にこれなら焦ったのか
佐助は余裕の笑みを
慌てた表情に変える。

「ちょ、ごめんごめん!そんなに怒んないでよ!」

「誰のせいだと…っ!」

怒りの治まらない主人に
佐助は暫く考えると
なにか閃いたらしく
また余裕の笑みが戻った。

「ねぇ小十郎さん」

「…なんだ」

「今ウチに野菜が沢山送られてきてさぁ…俺と旦那じゃあ食べきれないから良かったらm」

「なんでそれをもっと早く言わねえ!今すぐ持ってこい!」

「りょうか〜い♪」

先程までの怒りは何処へ。
主人は野菜という単語に
恐いぐらいに反応して
もう後半ぐらいになると
子供のように顔が
キラキラと輝いていた。

それを見て佐助が
安心したように笑い
またベランダから
姿を消してしまった。

成る程。
主人は野菜好きらしい。

吾輩が納得していると
一分も経たない内に
佐助が大きな箱を片手に
ベランダから入ってきた。
流石お隣さんだ。
いや、佐助の運動神経が
いいからかもしれない。
しかし、運動神経が
どれ程良いと言っても
ベランダからは
普通入らないだろう。

悶々と考えていると
大きな箱を開いた主人が
幸せそうな表情で
野菜を次々誉めている。
その様子を嬉しそうに
見ているのは佐助。
なにやら鼻から赤い液体が
出ているがなんだろうか。
知らぬが仏なのか。

「どう?上等な野菜ばっかでしょ?というわけで、ご褒美のチュー頂戴!」

「ああ、どれもかなりの代物だな。政宗様に早く召し上がってもらいたい」

「ちょ、」

「人参とじゃがいもがあるから…シチューにでもするか…ブツブツ」

「………」

野菜がたっぷりと入った
箱を抱えて主人は
キッチンへと消えた。
部屋に残された佐助を
吾輩はジッと見つめた。
…泣いている。
かなり泣いている。




 
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