猫シリーズ

□あの人を愛する男の話
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いつからだろう。
こんな感情をアンタに
抱くようになったのは。
いつぶりだろう。
こんなに人を好きだと
思えたのは。

いつもの朝。
早起きしてご飯作って
服を洗濯機にぶちこむ。
なかなか起きてこない
大将と旦那を本気の
蹴りで叩き起こす。
二人が凄い勢いでご飯を
食べるのを横目に見ながら
テレビの天気予報を見る。
今日はずっと曇りだが
雨は降らないらしい。

大将は会社に、
旦那は学校に。
それを見送りながら
汚れた食器を全て洗う。
それが終わると同時に
洗濯機がピーと鳴って
洗濯物を取りにいく。
それを抱えながら
ベランダに出て綺麗に
1つ1つ干していく。
これで朝の家事は
大体終了だ。

さて、ここからが
俺様の本気。
ベランダから身を乗り出して
左のお隣さんを覗く。
あれ、まだいない。
どうやら竜の旦那に
手間取っているらしい。
しょうがないなあ、
手伝ってあげましょうか。

俺様はひょいと隣の
ベランダに飛び移り
相変わらず無防備に
鍵を開けたままのベランダの
ドアをゆっくり開いた。
落ち着いた家具ばかりが
並ぶシンプルな部屋の
白いソファーの上で
やはり問題は起こっていた。

「ひ、ぅう…あっ!」

「Ha!なんだ、感じてきてんのか?小十郎」

そこには絡み合う男二人。
もう日常茶飯事だから
驚きもしなくなった。
制服の若い男の下で
涙目になりながら喘ぐ
20代後半の男。
いつものこの男からは
想像もつかない顔と声。
それに魅せられたのは
俺様だけではない。

「ちょっと、お二人さん」

これ以上行為が進めば
止められなくなるので
そっと声をかけると
二人とも過剰なぐらいに
びくり!と跳ね上がり
凄い勢いで俺様を見る。
俺様は苦笑いしながら
部屋の時計を指差した。

「朝っぱらから元気なのは分かるけど…竜の旦那、遅刻しちゃうよ」

時刻は7時55分。
走ればギリギリ間に合う。
とろんとしていた
小十郎さんの表情が
みるみる青ざめていく。
ついには竜の旦那を
押しどけてキッチンへと
全力で走っていった。
きっとお弁当を作っている
最中だったのだろう。

「チッ…折角良いところまで追い込んだのによぉ…」

二人だけになった部屋で
竜の旦那が忌々しげに
俺様を睨み付ける。

「朝っぱらから盛ってる竜の旦那が悪いよ」

「Ha、てめえの狙いは小十郎だろ?いっつも通いやがって」

「羨ましい?」

「まさか。俺は小十郎と一緒に暮らしてんだぜ?」

ばちばちばちばち。
お互い笑顔で火花を散らす。
やっぱりこの糞餓鬼、
消しておくべきか。
そんな中で小十郎さんが
お弁当片手に走りながら
リビングに戻ってきた。

「ほら政宗様!早く支度を済ませてください!ああ、服が皺になっております!」

オカンさながらの早さで
小十郎さんはテキパキと
支度を手伝うとお弁当を
鞄に突っ込みそれを
竜の旦那に押し付けた。
竜の旦那は唇を尖らせて
少し不服そうにしていたが
オカンパワーに負けて
のろのろと出ていった。

二人になって
静かになった部屋の中、
次に犠牲者となるのは
勿論俺様なわけだ。

「猿飛、玄関から入れと何度言えば分かる…」

案の定ご立腹なようで
小十郎さんは青筋浮かべて
俺様を睨み付ける。
でも、最初の頃より
全然怖くはない。
だって小十郎さんに対する
気持ちが変わったから。
つい、苛めたくなる。

「そうだよねえ、さっきみたいにヤってる所見られちゃうから嫌だよね」

「っ…!」

そう言った瞬間、
カアッと赤くなる顔に
自然と口許が上がる。
可愛い反応…。
きっと自覚なしにこんな
反応してんだろうな。

そしてふと、小十郎さんの
下半身に目が行った。
先程の竜の旦那との行為を
止めさせられたので
昂らされた熱が
少し苦しそうにジーパンを
押し上げているのが分かる。

それを理解した時、
俺の理性は既に
飛んでいたのかもしれない。






 
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