猫シリーズ

□どうしようもない日常
1ページ/3ページ




「よし、出来た」

吾輩が名前を貰って
すぐに政宗様と幸村は
学校へと向かった。
その後は主人と佐助が
なんだかんだで仲良く
シチューを作った。
昼御飯も一緒だ。

野菜がたっぷり入った
良い出来映えのシチューに
主人は満足げに笑う。
それを横目に佐助も
嬉しそうに笑った。
外はすっかり夕暮れで
学校の終わった学生達の
笑い声が聞こえる。

「んじゃ、俺様帰るね。洗濯物取り込まなくちゃ…旦那も帰ってくるし」

「シチュー半分持って帰ってもいいぜ?あの熱血二人組がよく食うんだろ」

「いいよいいよ。まだ野菜沢山あるから傷む前に食べとかないと。それに今日はそっちにお客さんが沢山来そうだし」

なんだか意味深な言葉に
主人が首を傾げると
佐助は小さく笑って
主人の身体を引き寄せると
額に軽い口付けをした。

「っ!」

「おやすみ。また明日」

そう主人に囁いて
小さく吾輩に手を振りながら
ベランダから相変わらず
身軽に姿を消した。
沈黙が落ちた部屋の中で
吾輩が主人を見上げると
主人は耳まで赤くなり
どこか悔しげな顔をしていた。

その表情が一体なんなのかは
吾輩にはまだ分からない。

「小十郎!!帰ったぜ!!」

すると、玄関の音と共に
響いた聞き慣れた声に
主人の表情は一変して
酷く優しく例えるなら
母親のような顔になった。

「おかえりなさいませ、政宗様」

そう言いながら主人は
玄関の方へ顔を覗かせる。
しかしその穏やかな表情は
ピシリと凍りついた。
何事かと思っていると、
にこにこしながら
帰ってきた政宗様の後ろから
ぞろぞろと二人の男が
なに食わぬ顔で入ってきた。

「お邪魔するよ、片倉小十郎」

「相変わらず綺麗だよね〜、片倉さんの部屋」

片方はスーツ姿をした
見るからに悪人そうな男。
片方は明るい色の髪をした
見るからに善人そうな男。

「政宗様…?」

口許をひくつかせながら
主人は政宗様を睨む。
その視線を受け流し、
制服を脱ぎながら
政宗様は説明し始めた。

「松永のオッサンは学校終わってから暇そうだったから連れてきた。慶次はマンションのエレベーターでバッタリ会ったから連れてきた」

「そんな捨てられた猫じゃないんですから…!!戻してきなさい!!」

「お前だって猫連れてきただろ?おあいこだ、おあいこ」

そう言われると言い返せず
主人はうぐぐと唸った。
哀れだ。
同情の目でそれを見ていると
突然ふわりと吾輩の
視線が高くなった。

「片倉さんが拾ってきたんだ〜?可愛い〜」

吾輩を抱き上げたのは
善人の方だった。
目の前の笑顔が眩しい。
思わず目を細めていると
今度は視界が少し低くなり
悪人に抱き上げられた。

「ふむ…猫、か」

悪人は暫くなにか考えると
ニヤッと気味の悪い
笑みを浮かべた。
もしや吾輩喰われたり
するのではないか。
ぶるぶるとしていると
次には主人が悪人の手から
吾輩を奪い返した。

「松永っ!!テメェはみたらしに触んなっ!!前田も席に座れっ!!」

「……みたらし?」

「Ah、猫の名前だ」

「ふ〜ん、真田印?」

「よく分かったな」

「奴のネーミングセンスが酷いのは常識だろう」

主人が吾輩を優しく
抱き上げて「大丈夫か?」
「なにもされてないか?」と
猫バカよろしく聞いている間
テーブルを囲む三人は
幸村のネーミングセンスの
酷さに花を咲かせていた。
そんなものに咲かされても。

やっと主人の怒りも収まり
四人は朝から佐助と主人が
作っていたシチューを前に
テーブルを囲んでいた。

「やっぱり片倉さんが作るシチューは美味しいね〜」

「ありがとよ」

「卿も少しは出来る主婦になったようだな。いや感心感心」

「誰が主婦だ死ね松永」

「いや、小十郎は主婦だぜ?お前ら人妻に手ェ出すなよ」

「政宗様、あーん」

「ぎゃああああっちいいい!!小十郎!俺にあーんする時はフーフーしてからしろって何回も言ったよね!?言ったよね!?」

「忘れてました(にこっ)」

「うわああああんでも小十郎可愛いから許しちゃうううう」

「ねえ俺空気?空気なの?」

「卿らはいつも忙しいな」

「「お前のせいだよ!」」

政宗様と主人の漫才に
二人混じっただけのような
楽しい会話に吾輩も
こっそりと笑った。
にゃにゃにゃ。

夜は更けていく。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ