猫シリーズ

□曖昧プロポーズ
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かららん。

「いらっしゃいませ〜」

政宗様が店のドアを押せば
毛利の店でも聞いたような
綺麗な音が吾輩の耳を擽った。

「二人と猫一匹。外で。Ah…コーヒー2つ」

「かしこまりました」

人数を確認しにきた
ウエイトレスに政宗様は
そう告げて再び外へ出る。
休日なこともあって外でも
カフェの客は多かったが
丁度席が2つ空いていたので
主人と政宗様はそこに座り、
吾輩は主人の膝の上で
まったりと寝転がった。

するとすぐにさっきの
ウエイトレスがコーヒーを
2つ持ってきて机に置くと
「ごゆっくりどうぞ」と
お辞儀をして愛想良く笑い
店の中に戻っていった。

主人は早速コーヒーを
一口飲むと幸せそうな
表情を浮かばせた。
しかし、対する政宗様は
コーヒーをまじまじと見つめ
飲んでもいないのに
苦い表情を浮かばせている。

ああ、苦手なのだな。
なら何故頼んだのか。
政宗様のことだから
主人の前で格好をつけたかった
ぐらいのものだろうが。

吾輩が政宗様を
哀れむような目で見ていると
ばちりとその左目と目が合い
政宗様は一層苦い顔で
無理矢理に笑ってみせた。
まさに苦笑いである。

想い人が近くにいると
色々大変なのだな。
吾輩は政宗様に少しだけ
同情しつつ心の中で
同じように苦く笑った。

「それで、なにをお買いになったのですか?政宗様」

政宗様と吾輩の間で無言の
会話があったとも知らず
主人はコーヒーを片手に
和やかな笑顔を向けた。
政宗様も「oh!」と反応して
嬉しそうに大きな袋を
がさごそとし始めた。

そしてそれから最初に
出てきたのは。

「…フライパン、ですか?」

「まだだ。どんどん置くぜ」

政宗様はそう言い言葉通り
どんどんと机の上に
買ってきたものを出していく。お皿、しゃもじ、おたま、箸、
ヤカン、包丁…などなど。
見事に料理関係のものばかり。
吾輩と主人が唖然としていると
政宗様は柔らかく笑った。

「昨日、俺が朝食作っただろ?そん時に気付いたんだが、色んなもんがボロくなっててな」

「え…」

「お前はすぐに余計な気を使って言ってこねえし。ボロくなってきたらなんでも買ってやるって言ってんのによ」

「しかし、輝宗様の稼いだ金ですし…」

「それが余計だってんだ。これは親父も言ってたことだぜ?素直に受け取っときな」

「…っはい…」

ありがとうございます、と
主人は小さく頭を下げた。
吾輩が見上げてみると
その目には薄く涙が滲んでいて
感動しているのだと分かった。
政宗様は満足そうに頷き
次にポケットから小さな
白い箱を取り出した。

「…政宗様、それは?」

「なんだと思う?」

首を傾げている主人に
政宗様はニヤッと笑うと
それをゆっくり開いた。
その中に光っていたのは
シルバーリング。
その輪にダイヤモンドが
キラキラと輝いている。

これはまさか…

「結婚指輪だ、小十郎」

「政宗様…!」

政宗様の左手の薬指には
それと同じ指輪がはめられて
とてつもない輝きを
キラキラと放っている。
ああ、なんということだろう。
二人(と吾輩)の周りには
ぶわっと薔薇が咲き誇る。
結婚おめでとう。
結婚式はいつですか。
お子様のご予定は?

しかし吾輩には見えていた。
主人の前髪がはらりと落ちて
頭からニョキッと
鬼の角が生えたことを。
次の瞬間、ぶちりと
なにかが切れる音がした。

「輝宗様のお金でなんてもん買ってんだこのクソガキャー!つーか俺は男だあああ!」

「Noooooooo!!!!!」

どこから取り出したのか。
いつものネギが政宗様の
脳天を直撃した。
まあ当たり前の結末である。
静かに気絶した政宗様に
主人は溜め息を吐きながら
指輪を憂鬱そうに見つめた。

「チッ…買っちまったもんはしょうがねえしな…」

そして指輪を箱から取ると
左手の薬指にそっとはめた。
それは光に当たって
主人の指で輝いた。

「サイズぴったりかよ…」

よく分かったな、と
主人は呆れたように
政宗様を見たが次には
柔らかな笑みを浮かべた。
その笑顔を見つめながら
この二人はなんだかんだで
両思いだと吾輩は知った。

その後主人は政宗様が
目を覚ますまで周りの客と
店員からの視線をたくさん
浴びながらコーヒーを
啜っていたのであった。












曖昧プロポーズ

(もう夫婦で良いと思う)















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