猫シリーズ

□子猫のランチタイム
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その出来事は日曜日の
お昼に起きた。

夜中までずっと降っていた
雨も止んで空はカラリと
晴れ渡っている。
開け放たれたベランダの
窓からは春の暖かな風が
舞い込んで吾輩の毛を撫でた。

耳を澄ませばお隣さんから
「ぎゃあああ!ちょっと!辛いの好きなのは分かるけどかけすぎだって!表面真っ赤!超真っ赤!ちょ、まだかけるの!?旦那ァアアァアアァア!?大将も笑ってないで止めてよ!」
と、ラーメンの香りと共に
佐助の悲鳴が聞こえる。

「…騒がしいな」

それを聞きながら主人は
むぐむぐとチャーハンを
口の中に消していく。
その足元で吾輩もフードを
むぐむぐと頬張り、頷く。
政宗様はご飯を早めに食べると
『元親の所に行く』と言い
出掛けていったので不在だ。

昨日の晩の事があったので
多少不安があったが
主人は普通に接してくれた。
心にひっかかっていた何かが
一気に溶けた気がした。
それがなんだったのかは
よく分からないが。

その時、チャイムも鳴らずに
ドアがガチャリと開いた。
政宗様が忘れ物でも
したのだろうと思い
吾輩も主人もそのまま
食事を続行することにした。

「ただいまあ〜」

しかし暢気な声を出しながら
まるで我が家のように
入ってきた見知らぬ男性に
吾輩は飛び上がった。
だが隣の主人は飲んでいた茶を
口から盛大に吹いて
吾輩との驚きのレベルが
違うことがよく分かった。

「ててて輝宗様っ!?」

「久しいね、小十郎。体調は崩してないかい?」

ダンディーなスーツと
ダンディーな顔立ちと
ダンディーな笑顔と言葉遣い。
キング・オブ・ダンディーと
いうべきだろうか。
その男は輝宗様というらしい。
カフェの時に何度か
その名前を聞いたことがある。

「げ、元気ですが…」

「そう、良かった。…ん?」

ばちり。
輝宗様と目があった。
そして、沈黙。
なんだかデジャヴだ。
そうだ、なんだかこの人は
政宗様の面影がある。

「…猫?」

「す、捨てられてたんで…」

「ふーん。良いことしたね、小十郎。キャットフード買ってくれば良かったかな」

「そんな、滅相もない!」

主人はいつもよりも
激しくオドオドしていて
言葉遣いも堅苦しい。
輝宗様はお偉いさんなのか。

「それで、あの、どうしていきなり日本へ?アメリカでの仕事は終わったのですか?」

「基信みたいな事言わないでよ…。ちょっと政宗と小十郎の顔が見たくなってね」

「なっ…それだけですか!?」

「そんだけ。てゆーか口座から250万一気に抜かれててさあ、俺びっくりしちゃったよ」

「それはっ…政宗様に代わりお詫び申し上げます!」

「いや、250万ぐらいなら別に大丈夫だし。どんどん使いなよ」

なんという太っ腹なのか。
ダンディーな笑顔が
一層輝いて見える。
吾輩は主人と並んで
感激していた。

「んじゃ、俺帰るね」

「えっ、もうですか!?」

「ゆっくりしていきたいけど、やっぱり忙しいからね〜。綱元と成実に挨拶したらすぐにまたアメリカに戻るよ」

「そう…、ですか」

心なしか主人がしょんぼりと
したように見えた。
それは輝宗様も分かった様で
薄く苦笑いを浮かべると
俯く主人の額に軽く
唇を触れさせた。
二人の視線が近い距離で
ゆっくり絡まる。

「ごめんな、一人にさせて」

「い、いいえ!政宗様が居られますので…」

「寂しくなったり、しない?」

「………っ輝宗様、」

「大丈夫。もうすぐ…迎えに行くからね、小十郎」

「は、い」

「良い子だ」

輝宗様はにこりと微笑んで
主人の手の甲にキスすると
「これお土産ね」と
机の上になにやら沢山置いて
慌ただしく部屋から
出ていってしまった。
嵐のような人だ。

ふと主人を見上げると
輝宗様が出ていったドアを
うっとりと見つめたあとに
突然立ち上がりソファーに
ダイブしたかと思えば
なにやらその上で
ばたばたと悶え始めた。
両手で覆われた顔は
よく見えなかったが
耳がとてつもなく赤い。

ああ、これが噂の
「オトメ」というやつか。
輝宗様、恐るべし。
吾輩は悶える主人を横目に
残りのご飯をぺろりと食べた。
うみゃあ。













子猫のランチタイム

(Hey、小十郎!帰ったぜ!)
(輝宗様…ふふ、ふふふふ)
(…shit、親父が来たのか)















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