猫シリーズ

□もっと分かり合える
1ページ/3ページ




「うーん、これなんかどう?ウチの旦那のだからちょっと大きいけど大体同じ体格だから、ピッタリだと思うんだよね」

今、吾輩は佐助が持ってきた
服とやらを片っ端から
着せられ遊ばれていた。
心なしか佐助の目が
爛々と輝いている気がする。
余りにも服を着せられたので
ボタンの留め方やズボンの
穿き方まで覚えてしまった。
主人は気絶したので
寝室で寝かせている。

佐助が楽しそうなのは
なによりなのだが、
まだ吾輩は人間になったという
衝撃に混乱していた。
視線の高さ、歩き方。
視力、聴力、嗅覚、言葉。
全てが新鮮だった。

「はい、下はこれに決まり」

「…うむ」

そんな中でやっと佐助は
下の服を決定したらしく
吾輩にジーパンを押し付けた。
それを受けとるとまたすぐに
大量に持ってきた服を
佐助は探り始めてしまった。

呆れつつも裸が寒いので
ジーパンをもそもそと穿く。
幸村のであろうそれは
吾輩には少し大きくて
ダボッとしていた。

「…さすけ」

「ん〜?」

「もっと驚かないのか」

「別に。驚いてたってしょうがないじゃん?人間になっちゃったんならしょうがないよ」

「…うむ、そんなものか」

「そんなもんだよ。…ん、上はこれに決ーまりっ」

佐助はあっけらかんと
しすぎていて、
逆に吾輩を安心させた。
猫が人間になったのに
「しょうがない」で
済ませられるのは
佐助だからだろう。

佐助に渡されたシンプルな
黒いTシャツに腕を通して
ほっと息を吐いた。

それと同時に背中になんだか
視線を感じたような気がして
ドアを見るとその隙間から
先程まで気絶していた主人が
吾輩をガン見していた。
軽くホラーである。

「旦那、なにしてんの。早く入っておいで」

声をかけられずにいると
佐助が助け船を出してくれた。
主人は戸惑いながらも
いそいそと部屋に入ってきて
固い表情をしたまま
その場に正座してしまった。
吾輩もなんだか正座しなくては
いけないような気がして
同じように正座をして
主人と向かい合った。

主人の綺麗な目がぎこちなく
吾輩を見つめて、
すぐに逸らされる。

「………主人?」

「あ、いや……その、さっきは気絶して、悪かったな」

突然の主人からの謝罪に
とんでもない、と
頭をぶんぶか振れば、
主人は柔らかく笑ってくれた。
その笑みになんだか
トクトクと心臓が
速まるような気がして、
なんだか酷く嬉しくて。

「それに…その……」

「?」

「かっこよく、なったよな」

少し顔を赤らめながら
小さくはにかみながら
主人がいってくれた言葉を
吾輩は生涯忘れないだろう。

かわいいかわいい、とは
何度も言われたが
かっこいい、なんて
生まれて初めて言われた。
いや、そんなことよりも。

「主人に、嫌われてなくて、良かった………っ」

吾輩が一番怖かったこと。
人間の姿になってから
嫌われたらどうしよう。
捨てられたらどうしよう。
そればかりだったのだ。

主人は吾輩の言葉に
少しだけ目を見開いたが
すぐにいつもの優しい笑顔で
いつものように頭を
なでなでとしてくれた。

なんだか目の奥が熱くなったが
それがなんなのか
まだ吾輩には分からない。



「………で?」



そしてそんな空気も佐助の
不機嫌そうな声によって
終わりを告げた。
主人とうっかり二人だけの
世界になっていたらしい。

「全く、卿らの茶番劇を見にきたわけではないのだがね」

そして更に佐助の横に
いつのまにか座っていた
人物によって、
やっと落ち着いた現状も
再び大惨事になるのだった。



 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ