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…苦しい。
こんなに苦しい想いは
早く捨ててしまいたい。
だけど、俺には出来ない。

(……あ、)

廊下の角を曲がると
見慣れた顔が二人。
梵と…小十郎。
縁側に小十郎が座って
寝転んだ梵がその膝に
頭を乗せている。

胸が締め付けられる。
呼吸が浅くなる。
嫌だ、こんな感情は嫌だ。

いつから小十郎を
好きになっていたんだろう。
それは分からないけど
梵が小十郎と並ぶ度に
苦しくなるこの感情を
『恋』だと認識するのには
意外と時間がかかった。

蝉のミンミンと鳴く声が
どこか遠く聞こえる。
じとりとした暑さが汗となり
こめかみを伝っていく。
寝転ぶ梵にゆっくりと
扇子で風を送る小十郎は
とてつもなく愛しそうで。
時折小十郎に手を伸ばして
頬を撫でる梵が
とてつもなく幸せそうで。

(くるしい)

分かってる。
俺がどんなに頑張っても
小十郎は振り向かない。
俺がどれだけ泣き喚いても
小十郎が困るだけ。
もし小十郎を奪えるとしても。

(…できねえよ、そんな事)

あんなに幸せそうに
笑い合ってたら…
出来るわけがない。
小十郎が好きだ。
だけど梵も好きだ。
ずっと笑っていてほしい。
幸せであってほしい。

だから―――、

この二人の幸せは
俺には壊せない。

胸がずきずき痛くて
俺はそっと引き返した。
基信に届ける筈だった紙は
無意識に握り締めていたのか
ぐしゃぐしゃになっていた。

「あー…また書き直しだな」

こんなの基信に届けたら
首を絞められる。
仕事になると小十郎よりも
厳しいからなあアイツ…。
ふう、と深く溜め息を吐き
のろのろと自分の部屋に戻ると
そこにいた人物に
口許が引き吊るのを感じた。

「仕事はちゃんと進んでいらっしゃいますか?成実様」

「綱元…」

嫌味なぐらい涼しげな
その表情はいつも通り、
なにを考えているのか
全く分からない。
機械的な言葉も行動も
感情があるのか疑う程。
俺は鬼庭綱元というこの男が
どうしても苦手だ。

ポカンと立ち尽くす俺に
綱元は怪訝そうにしながらも
大量の資料やら分厚い本を
ドンと容赦なく机に置いた。

「これ、明日までに終わらせてください」

「は!?明日ァ!?無理無理!まだ沢山残ってんだよ!」

「ならばそれも終わらせてください」

「なっ……」

驚愕する俺を差し置いて
綱元は黙々と俺が書いた
紙を確認し始めた。
相変わらずムカつく奴だ。
いつもなら我慢できる怒りが
さっき見てしまった
光景のせいで収まらない。
なんで梵なんだよ、小十郎。
俺じゃあ駄目なのか?

「成実様、どうしました」

全然心配してなさそうに
綱元が俺を見上げる。
切れ長な目がゆらりと
綺麗に細められた。
小十郎の目に似ている。
ああ、そういえば綱元は
小十郎と義兄弟だったか。

「…成実様?」

声も、似てる。

『成実』

(小十郎)

綱元の声が心地好くて
ゆっくりと瞼を伏せた。
小十郎が手に入らないのなら
もう、いっそのこと――。

「成実様!」

肩を強く揺すられて
目を開けば綱元がいた。
でも、俺はその姿に
小十郎を重ねていた。
はらりと握り締めていた
紙が空中に舞う。

「こじゅ、ろ」

思わず口に出た名前に
綱元は眉をしかめた。
しかしそれはすぐに戻り
いつもの変わらない口調で
俺にゆっくりと言った。

「貴方に小十郎は手に入りませんよ」

それは自分の中でも
何度も言い聞かせた言葉。

「……分かってる」

「それに、私は小十郎ではありません」

「分かってるって!」

苛立ちがどんどん高まって
俺は綱元を殴り倒した。
声も出さずに倒れ込む
綱元の上に俺は覆い被さり
その胸ぐらを掴んだ。
しかし無抵抗に俺を見上げる
綱元は無表情だった。
それが更に俺を苛立たせる。

めちゃくちゃにしてやりたい。
壊してやりたい。
黒く濁った感情がどんどん
胸から溢れだしてきて
止まらなかった。

綱元の口許からは
赤い血が線を作っていた。
それを舌でねとりと舐めれば
小さくだがビクリと
反応が返ってきた。

それにもう止まらなくなって
俺は乱暴に綱元の服を剥ぎ
うつ伏せに押さえ込むと
慣らしもしていない後孔に
欲望を突き立てた。

「あ゙っ…!ぐ……ぅっ」

流石に辛いのか綱元は
畳を爪で引っ掻き
引き吊った喘ぎを漏らした。
いつも冷静な表情しか
見たことがなかったから
痛みに悶える綱元に
俺は優越感を覚えた。

しかも予想以上に中が熱く
よく締まっていて
夢中で腰を叩き付ける。
綱元の後孔からは血が流れ
あまりの痛みに男根は
萎えたままだったが
いつまで経っても
綱元は抵抗をしなかった。

「くっ…」

「はっ……ぁ…」

限界がきて中に吐き出すと
綱元はびくびくと腰を震わせ
荒く息を吐いた。
ずっと噛み締めていたのか
唇を新しい血が
真っ赤に染めている。

(……綺麗、だな)

暫くその光景に見とれていたが
ハッと我に返った時には
もう遅かった。




 
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