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―――――――――――…



正直、よく眠れなかった。
クマが薄く出来ていて
自分に苦笑いするしかない。
それでも私はあの人の元へ
足を進めるしかないのだ。

数枚の資料を片手に
その部屋を訪れる。
渇いた喉で唾を飲み込んで
小さく深呼吸をすると
そっとその障子を開いた。

「おはようございます、成実様」

いつものようにそう言い
部屋の中に視線を回せば
そこには布団があった。
それに丸まった成実様が
目を丸くして私を見ていた。
目を丸くしたいのはこっちだ。

「…いつまで寝ているおつもりですか。早く起きてください」

呆れつつもそう言って
仕事に取りかかろうとすると
成実様は凄い勢いで
布団から這い出すと
私の片手をがしりと掴んだ。

「綱、元……っ」

ああ、まずい。
成実様の泣き出しそうな声に
思わず唇が震えた。
駄目だ、流されるな。
冷たくしなければ。
小十郎の代わりでいなければ。

「…なんですか」

「俺っ、もしかしたら、お前が…!」



好きなのかもしれない。



ぽろ、と。
いつから溜めていたのか
私の目から涙が溢れた。

それには私も驚いたが
成実様はもっと驚いたのか
正座したままその場でピャッと
飛び上がり(器用なものだ)
これでもかと目を丸くした。

「つ、綱…つなも…っ」

「…死ねばいいのに」

「いきなり!?」

だってそうじゃないか。

「貴方は自分勝手だ」

「…っ分かってる」

「都合が良すぎる」

「…分かってる」

「小十郎が手に入らないから私を選んだ」

「…ああ、そう、かもな」

痛い、胸が、痛い。
もうほっといてほしい。
一人にさせてほしい。
なんでこんなに辛いのか
自分でも分からない。

溢れて止まらない涙に
困惑しながらも手で
拭おうとするとぎゅっと
成実様の胸の中へと
押し込まれた。

「なあ、綱元」

今まで聞いたことのない
優しい声に肩が跳ねた。

「お前は、俺のことどう思ってる」

「…生意気な、餓鬼」

「ははっ…そっか。他は?」

「…剣の腕が良いのは認めております…あと、仕事もやれば出来ることも」

「うん、そうか」

成実様はまるで子供でも
あやすかのように優しい声で
私の頭を撫でていた。
それがなんだか妙に
落ち着いてゆっくりと
瞼を下ろした。



いつからだっただろう。
成実様が小十郎を
キラキラした目で
見るようになったのは。
私が成実様に何か言うたび
「小十郎ならこうした」
「小十郎ならこう言う」
と口癖のように
言うようになったのは。

いつからだっただろう。
それを見て、聞くたびに
胸に知らない痛みが
走るようになったのは。

ぎゅう、と心臓を
掴まれたような息苦しさ。
私には、分からない。

昨日、成実様に無理矢理
犯された時にその痛みは
爆発したように強くなり
慣らしもせずに貫かれた
後孔よりも痛かった。

涙は何故かどうしても
出てはこなかった。





―――――――――――…





ああ、寝ちまった。

今、俺の腕の中で
穏やかに寝息をたてる綱元に
ゆっくりと息を吐いた。
よく見れば目の下に
うっすらとクマがあって
寝ていないのだと気付く。

悔やんでも悔やみきれない
昨日の出来事。
本当に酷いことをした。
それでも、やっぱり、

「俺はお前が好きだ…」

本当は逃げていただけだ。
本当は昔から綱元が
好きだったのかもしれない。
だけど自分を見せない綱元を
冷たいだの面白くないだのと
なにかしらとケチをつけて
小十郎に逃げていただけだ。

それが綱元を傷付けた。
純粋な、綱元を。

「ごめんな」

白い綱元の首筋に
そっと唇を落とす。
それと同時に綱元と似た足音が
廊下からして俺が慌てる
暇もなくその人物は
部屋の障子を開いた。

「成実、基信殿が早く資料を持ってこい、と……あ゙?」

「こ、こじゅ…」

ああなんてタイミングだ。
綱元が寝ているのは良いものの
俺は今まさに綱元の首筋に
キスをしていたのだ。
しかも相手は小十郎。
気まずい。
ものすごく気まずい。

小十郎は暫くの間
キョトンとしていたが
状況を理解すると静かに
障子を閉めた。
って、待て待て待て!

「こ、小十郎っ」

「成実。兄上をあまり哀しませるんじゃねえぞ」

「!」

障子越しに小十郎は
静かにそう呟き
さっさと去ってしまった。
ポカンとしていると
「んー」と綱元が身動いで
慌てて自分の布団に寝かせた。

「あー…やばい」

熟睡する綱元を眺めながら
じわじわと心が
暖かくなるのを感じる。
今、小十郎への好意は
恋ではないものへと
ゆっくり変わっていった。




 
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