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□言葉が無くとも
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「小十郎」



まるで、日常のように。
当たり前のことのように。
貴方は、どうして。

「おやめください、政宗様」

ぴしゃり、と腰に置かれた
主の手を叩き落とす。
執務をする俺の後ろで
政宗様が舌打ちをした。

「んだよ、つれねぇな」

そう言いながらも再び
その手は背中をなぞり、
肩、首、頬を行き来する。
問題なのは触り方だ。
ただ触っているだけではなく
愛撫とでも言えるような…。

「っ政宗様!」

我慢ならなくなり
思い切り振り返って
その手をまた振り払う。

「…なんでだよ」

「当たり前でしょう。政宗様は男。小十郎も男。更には主従なのですぞ」

早口にそう言えば
不満そうに拗ねていた
政宗様の顔つきが変わる。
目がギラギラとして、
昔からは想像もつかない程の
大人の雰囲気と色気。
そして殺気にも近い欲情。

どくん、と心臓が脈打った。

「小十郎、俺は違う」

一段と低い声に
思わず肩が揺れる。
その肩を政宗様が掴む。

「本当に、本気なんだ」

そしてそのまま
強く引き寄せられて
政宗様の胸の中へと
押し込められる。

頬に触れる肌が、熱い。
政宗様の心の臓が、
どくどくと早い。

「そりゃ男同士だし、主従だ。だけどそんな事も気にしてらんねぇぐらい、好きなんだ」

俺を抱き締める政宗様の腕に
小さく力が込められる。
ハッと気付けば自分の心臓が
有り得ないほど脈打ち
顔にも熱が籠っていた。

「なあ、小十郎」

耳元で政宗様の声が響く。
駄目だ…泣いてしまいそうだ。
幸せで、嬉しくて。
でも、酷く切なくて。

この想いは絶対に
伝えてはならない。



「…なりませぬ」



びく、と背中に回された
政宗様の手が揺れる。
それに心が痛くなるが
唇を一度強く噛み締めて
政宗様の腕の中から
そっと抜け出した。

政宗様の両手が虚しく
なにもない宙を掻く。

「こ、じゅ」

嗚呼。
そんな泣き出しそうに。
震えた声で。
だけど、………だけど。

「なりませぬ」

もう政宗様の表情を
見たくはなかった。
視線を下ろした先にあった
政宗様の首に一筋、
汗が伝っていった。
いや、涙だったのだろうか。

「…本当に好き、なんだ」

もうそれは泣き声だった。
頭の中に梵天丸様の
泣き顔がよぎる。

「こじゅ」

助けを求めるような声に
たまらなくなって
そっと顔を上げれば、
目の前に政宗様の顔があり
唇と唇が小さく触れた。

「ん、」

「悪かった」

何かを言う暇もなく
政宗様は素早く立ち上がると
逃げるように部屋から
出ていってしまった。

最後に一瞬だけ
政宗様の表情を
見てしまった。
苦しそうに泣き出しそうで。

『本当に好きなんだ』

政宗様の言葉が
頭の中を何度も駆け回る。

「………俺、だって」

そこまで言って
ふるりと唇が震えた。
じわじわと込み上げる
目の奥からの熱に慌てたが
もう止めようがなかった。



「俺だって…貴方と結ばれたい」



だけど伝えられない。
この想いは。
きっと、もう、一生。














言葉が無くとも

(この想いが、愛しい貴方に)















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