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□溺れ花
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どたどたどた…
すぱーん!

「政宗様!!」

どたどたどた…
すぱーん!

「政宗様!!」

どたどたどた…
すぱーん!

「ここにもいらっしゃらない…一体どこへ…?政宗様!!」

どたどたどた…



奥州の朝が騒がしいのは
いつもの事だが、
今日騒いでいるのは
珍しくも小十郎だった。
まあ、その理由は
やはり政宗な訳だが。
今日の朝に小十郎は
いつもどおりに
寝起きの悪い政宗を
起こしにきた。

しかし、そこに
主の姿はなかった。

最初はまた自分の
部屋か畑にでも
いるだろうと軽く
探していたのだが、
どこをどう探しても
見つからない。

馬を確認しに行ったが
そこにはちゃんと
政宗の愛馬が
繋がれていたから、
外に出ては
いないらしい。
大体、小十郎に
なにも言わずに外に
出る程政宗は
馬鹿ではない…多分。

「政宗様ァ!」

小十郎の政宗を
呼ぶ声も真剣味を
帯びてきた。
その騒ぎにつられて
他の部下達も
集まってきて一緒に
城の大捜索を始めた。

そんな中で一人、
政宗の部屋の天井裏で
騒ぎの犯人である本人は
笑い声を必死に
噛み殺していた。

「ククッ…小十郎のあの焦った顔…cuteだぜ」

「ちょっと竜の旦那、笑い事じゃないって。どうすんのこの騒ぎ」

ニヤニヤ嬉しそうな
政宗の横でかなり
迷惑そうな
表情をした男。
真田の忍である
猿飛佐助はただ文を
届ける為に奥州へと
来たのだが、
とんだ厄介事(政宗)に
捕まってしまった。

珍しく早起きをしていた
政宗に安堵しつつ
文を渡すと早々に
帰ろうとしたのだが、

「小十郎がどんだけ俺の事Loveなのか確かめたい」

だとかなんだとかで
案の定「協力しろ」と
きたもんだ。
しかも抜刀した状態で
半端脅しのような
ものだったので
流石の佐助も
お手上げだった。

「なーんで俺様がこんな事…」

「まあそう言うなよ。礼は小十郎の野菜だ…それに比べりゃ安いもんだろ?you see?」

「う〜ん…まあそうだけどさあ」

相変わらず
襖の外からはドタドタと
何人分もの足音と
「政宗様〜」の連呼。
小十郎だけでなく
他の部下達までもに
迷惑をかけている。
それに協力している
自分が佐助にはなんだか
いたたまれなかった。
それに自分も
暇な訳ではない。
幸村の団子とか
団子とか団子とか…。
 
そんな時、すぱーん!と
再び政宗の部屋の
障子が開いた。
思わず政宗は
息を呑んだ。

「…政宗様」

暫くの沈黙の後に
呟かれた声は
小十郎のもので、
先程の威勢はどこへやら
酷くか細い声だった。
天井裏の隙間から
その様子を伺うと、
やはり小十郎は
どこか泣きそうな、
寂しそうな
顔をしていた。

それに胸キュンして
ハアハアしてる政宗と
冷ややかな目で
それを見る佐助。
シリアスな展開を
している小十郎とは
かなり色々
間違っている。

「政宗様…この小十郎をお嫌いになられたか…?」

ぽつり、と呟かれた
言葉に今まで鼻息の
荒かった政宗の表情が
一気に強張った。
それに佐助が何事かと
口を開いた瞬間、下から
スラリと聞き覚えのある
音がした。
刀を抜く音だ。

「君主に嫌われるなど家臣として情けない!この小十郎、腹を切ってお詫びいたします!」

佐助は小十郎の直ぐに
腹を切ろうとする癖を
思い出して頭を
抱えたくなった。
慌てて様子を見ると
小十郎はしっかりと
正座をして腹を
はだけさせて今にも刃を
突き立てんとしている。
ああ、こりゃヤバイ。
ごめんよ竜の旦那!

「shit!!!!!」

政宗の叫び声と
佐助のかかと落としが
政宗にかまされたのは
同時だった。
ばりばりばり!と
派手に音を立てて
政宗は天井裏から
畳の床へと
全身で着陸した。

「っ…痛〜…」

ゲホゲホと
咳き込みながら
体を起こすと、
丁度目の前には
小十郎がいた。
政宗としては、
そこで涙を溜めながら
小十郎が抱き付いてきて
最終的にそれを
押し倒す予定
だったのだが、
やはり人生
上手くはいかない。

目の前の小十郎は
着物もちゃっかり
直しており、
泣きそうな表情も
嘘のように今は
極殺モードの
893顔である。
政宗が天井裏から
落ちてきたにも
関わらず、驚きもせず、
心配する様子もない。

「oh…ま、まさか小十郎…お前、」

「ええ、初めから気付いておりました。猿飛はともかく、政宗様は存在主張をガンガンしておられましたので。鼻息とか」

「…wonderful」

政宗は口調は
穏やかだが、
かなりキレている
小十郎に冷や汗を
かきつつ佐助に
助けを求めようと
破れた天井を見上げたが
そこには既に
佐助はいなかった。
逃げやがった!と
政宗が舌打ちした瞬間に
ひたりと小十郎の殺気が
全身を駆け抜ける。

「朝からえらい騒動を起こしてくれやがりましたね政宗様。覚悟は出来てますか?」

「お…OK。だが少し落ち着けhoney」

「死ね」

「おま、さすがに死ねは酷…ぎゃああああ!」

「竜の旦那…ご愁傷様…」

今日も奥州は平和です。
by佐助






溺れ花

(猿飛、野菜は好きな分だけ持ってけ。政宗様が世話になったな)
(え、いいの?)








 
 

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