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□強かった筈なのに
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ずきり、と右肩の
傷が痛んだ。

昨日の戦の時に
政宗様の背後から
斬りかかろうとした
敵兵を倒そうとして
出来た傷。
なんとか間に合って
政宗様は無傷だったが
俺の右肩には決して
浅くはない傷が出来た。

しかし政宗様には
知られたくなくて
必死に傷を隠した。
帰ってから女中に
手当てをしてもらい
政宗様には内緒に
してくれと頼んだ。
あとは治るのを
待つだけだった。

次の日の朝、政宗様に
呼び出された。
なんだろうかと
不思議に思いながらも
「失礼いたします」と
部屋の襖を開ければ
そこには不機嫌そうに
眉を寄せてこちらを
睨んでいる主君。

自分はなにかしたかと
考えながらも
襖を閉めて政宗様の
目の前に座る。
政宗様を見なくても
ヒシヒシと厳しい
雰囲気が伝わってくる。

「HEY、小十郎」

「…は、」

「なにか俺に言う事はないのか」

低くなにかを
押し殺したような声に
情けなくもびくりと
体が震えたのが分かる。
言う事なんて何もない。
そう言いたいのに
声がそれを拒む。

黙り込む俺に政宗様は
痺れを切らしたのか
舌打ちをして、
バッと立ち上がると
乱暴に俺の胸ぐらを掴み
床に押し倒した。

ごつんと後頭部が
派手な音をたてた。
痛みに唸ったが
それでも政宗様は
相変わらず怖い目をして
俺の前を掴むと、
一気にはだけさせる。

「っ政宗様!?何を…」

「この俺がお前の怪我に気付かないような鈍感な奴だと思ったか?」

「なっ…、うあ!」

なにかを考える暇もなく
服を剥ぎ取られて
政宗様の舌が昨日の
傷口を這う。
ぎくりと体が痛みに
震えて固くなった。

あまりの痛みに思わず
政宗様の胸を押すと
目が合った。
やはりその目は厳しく
俺はやっと分かった。

政宗様は俺が怪我を
知られたくなくて
隠していた事を
怒っているのだ。
でもまさか、
バレていたなんて。

「俺に言う事が分かったか?小十郎」

「は、ぁ」

やっと傷から舌を
離してくれた政宗様が
痛みに涙を滲ませていた
俺の頬を撫でた。
その手が心地よくて
痛みなんか忘れて
しまいそうだ。

「ごめ…なさ、い」

「very good」

素直に謝ると政宗様は
満足そうに笑って
俺の上から退いた。
右肩の痛みに唸りつつ
ゆっくり起き上がると
いつの間にか政宗様が
包帯と薬を片手に
座っていた。

「(酷いのか優しいのか…分からないな)」

いや、きっと
後者なのだろうけど。
俺は苦笑いを浮かべて
大人しく治療を受けた。

「なあ、小十郎。お前は俺の傷を癒してくれただろ?なら俺にだってお前の傷を癒させてくれよ。右目なら尚更だ」

包帯を巻きながら
政宗様が呟いた言葉に
俺が微笑むと政宗様は
少し不機嫌そうにして
包帯の上から傷の場所に
柔らかな唇を押し付けた。







強かった
筈なのに


(貴方の前では強がりも
通じはしない)













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