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□または、恋心
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今日もその子犬は
尻尾を嬉しそうに
ぶんぶか振りながら
やってくる。

「くぅあたくぅるぁどぬぉおおぉおぉお!!!!!」

「来やがった…」

別に逃げはしないのに
いつも派手な音で
廊下を走り馬鹿でかく
自分の名前を呼ぶ男。
真田幸村。
それが来たと分かると
小十郎はもう苦笑いを
浮かべるしかない。

幸村が突然奥州に
通うようになって
一月が経った。
最初は政宗に勝負を
挑んできているものと
誰もが思っていたが
彼が一目散に来るのは
決まって何故か
小十郎の所だった。

特になにをするでもなく
幸村は持参の団子を
小十郎と食べて
他愛もない話をひたすら
嬉しそうに話すのだ。
ただの話し相手なら
佐助や政宗で良いのに
なぜ自分なのかと
小十郎はずっと
不思議に思っていた。

幸村はあっという間に
小十郎の部屋に着くと
走った勢いを借りて
開け放たれている
襖の真ん中へと正座で
スライディングした。
何度見てもそれは
危なっかしくて
見ていられない。

「こんにちは片倉殿!今日も御相手よろしくお願いするでござる!」

「あ、ああ…」

御相手って…。
一体コイツは俺を
どうしたいんだ?
小十郎はますます
不思議に思った。
すると下げていた頭を
幸村が上げた。
やはりその表情は
嬉しそうに笑んでいて
犬の耳と尻尾が
見えた気がした。



―――――――……



「おい、そんなにがっつくな。喉に詰まるぞ」

「しかし、片倉殿が作る団子はあまりにも美味いので…つい」

小十郎が作った団子に
がつがつと相変わらず
見事な食いっぷりな
幸村を小十郎は
呆れながら眺めた。

「(体も細ぇのに…一体どこに入っていってんだか)」

もしかして団子用の
胃でもあるのか?
ふとそう思って
想像してみる。
幸村になら本当に
あるかもしれない。
そう思うと自然と
口許が緩んだ。

それを見た幸村は
ぴたりと動きを止めて
小十郎に見入った。
それに気付いた小十郎も
笑うのを止めて
幸村を見返した。
視線が絡んで、
一瞬の沈黙が流れる。

「…どうした?真田」

「あ、いえ…」

小十郎に声をかけられ
我に返った幸村は
少し頬を赤くした。
そして暫くもじもじと
目を泳がせた後に
顔を赤く染めたまま
静かに呟いた。

「某は…片倉殿に、こ、こ、こここ恋をしているらしいのでござる」

「こ…っ!!!?」

小十郎は飲んでいた
お茶を危うくも
吹き出しそうだった。

「(こい?コイって…あの恋?)」

混乱する小十郎を余所に
幸村は相変わらず
もじもじとしながら
小さく語り出した。

「今頃毎日片倉殿の顔が見たくてしょうがないのでござる!片倉殿が笑っていると胸が苦しくて…それで昨日佐助に聞いたらそれは恋、だと…」

「…(あの糞忍!)」

「そ、それで…片倉殿にお願いがあるのでござる」

「お願い?」

「そ、その…」

幸村は咳払いをすると
正座をし直して
ゆっくり頭を下げた。

「某の為に毎日団子を作ってくだされ!」

「…団子なら毎日作ってやってるだろ」

「Σそうでござった!」

小十郎はその会話に
頭を痛くした。
しかしいつになく
真剣な幸村の気持ちを
無視してしまうのも
気が引ける。
それが恋かどうかは
置いといて。

「真田」

「は、はい!」

「またいつでも来い。団子ぐらいは作っておいてやる」

「…!!!!!」

小十郎がそう言い
にこりと笑うと
幸村は目を見開いて
信じられないほどに
顔を赤くすると
次の瞬間、叫んだ。

「破廉恥でござるぅあああああぁあぁあっ!」

鼻血をぼたぼたと
撒き散らしながら
幸村は凄い勢いで
部屋を出ていった。
小十郎は呆然と
それを見送りながら
目の前で真っ赤に
染まった団子を見て
深く溜め息を吐いた。

「HEY小十郎!誰か来てたのか…って、血!?」

「政宗様。それはトマトです」

「無茶振りすぎんだろそれ!誰の血だ!」

「トマトです」

「まさか、幸m」

「トマトです」

「…Ah」









または、恋心

(佐助ぇ!か、片倉殿の笑顔…破廉恥でござるぅああぁあ!)(分かったから旦那、鼻血散らさないで)














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