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□救いがたい未来
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嗚呼…なんて顔を
するんだろう、と
歪む視界に映る男を
俺様は見つめた。

ぎりりと首を締める
手に力を込めると
綺麗な顔を歪ませて
キツく眉を寄せる。
それは昨夜の秘め事の
表情に似ていた。

思わず柔く笑むと
竜の右目と唄われる
片倉小十郎の肩が
びくりと跳ねた。
相変わらず反抗的に
俺様を睨みあげてるが
目には涙が滲んで
喉からはひゅう、と
乾いた音が漏れる。

可哀想に。
無感情にそう呟くと
右目の旦那の唇が
ゆっくりと開く。
きっとなにか文句でも
言うつもりなんだろう
息もろくに吸えない
その口はパクパクと
ゆっくり開閉した。

でも、忍の俺様には
聞こえてしまった。
分かってしまった。
ああ、もう…
勘弁してよ右目の旦那。
折角一晩中かけた
決意はアンタの一言で
あっさり砕かれる。

「俺様だって…アンタがまだ好きだよ」

片倉小十郎を殺せ。
そう主から命令が
下った時はそこまで
驚きはしなかった。
いつかこうなる事が
分かってたから。

でも、だけど。

主の命令は絶対なのに
忍はなんの感情も
持ち合わせては
駄目なのに…。
俺様、忍失格だよね。

「小十郎…」

名前を呼んでみると
右目の旦那が
苦しいくせに
無理矢理微笑んだ。
瞬間にズキリ、と
心臓が痛くなって
俺様はバッと手を離す。

「ーっ、げほっ、かはっ」

右目の旦那も本当に
限界だったらしく
激しく咳き込んだ。
それを呆然と見ながら
みるみると俺様は
目が覚めたように
ショックを受けた。

なんてことを
してるんだ俺様は
昨晩愛し合った
ばかりなのに…
なにが『愛してる』だ
なにが俺様のものだ…

「ご、めん…右目の旦那…!」

俺様は右目の旦那の
体の上から退いて
土下座した。
ごめんで許される様な
もんじゃないって
分かってるけど、
ただ謝りたかった。

体に張り付く服に
自分が大量の汗を
かいている事に
初めて気が付いた。
首を絞めているときに
確かに頭では冷静で
いたはずなのに、
本当に体は正直だ。

地面に額を擦り付けて
『ごめん』を繰り返す。
咳が治まっても
返事は返らない。
まあ、当たり前か。
いつ刀が抜かれて
刺されるか分からない。

だけど、それが
本望であったなら。
抵抗はいらない。

「猿飛」

掠れた声がして
思わず顔を上げると
二つの手が俺様の
顔を優しく挟んで、
前を見れば泣きそうで
なのに微笑んでいる
右目の旦那がいて。

「俺がもっと強ければお前に俺を殺させる真似なんかさせないのに」

「お前がそんな顔で俺を殺すなんて事させないのに」

「ごめんな、ごめんな」

ぽすりと右目の旦那…
小十郎が俺様の肩に
額を乗せて呻いた。
ああ、やっぱり
アンタって人は
お馬鹿さん。
でもやっぱり俺様は
アンタのモンだよ。

「俺が佐助を好きにならなけりゃぁ…っ」

「…こんなことにはならなかった?違うね…俺様達は殺し合う運命なんだよ」

さらりとそう言うと
目の前の小十郎の肩が
可哀想なほどに
びくりと震えた。
だけど、だけど。

「だけど俺様を好きじゃなかったら良かった、なんてもう言わないでね?」

今度は肩だけでなく
頭も揺れた。
後に嗚咽が聞こえて
俺様は静かにそれを
目を瞑り聞いていた。

頬を流れるものは
汗だと嘘を自分に吐き
唇を噛み締める。

よく出来た世界だ。
本当に欲しいものは
なにか大きなものを
捨て去らないと
手に入らないなんて。

俺様は出来るだけ
優しく目の前の体を
抱き締めた。

昨日愛した体
今日殺しかけた体
今再び愛した体
本当はずっとずっと
愛していたいのに
終わらない螺旋



終わりは何処だ――…








救いがたい未来

(もし、そうだとしても)












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