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□離れてみました
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小十郎から
離れてみました。

事の始まりは
ある日たまたま
遊びに来た元親に
小十郎が最近あまり
構ってくれないのを
相談した時だ。
元親は即答した。

「押してだめなら引いてみろって言うだろ?俺ならこっち側から突き放す」

なるほど。
その手があったか。
小十郎に冷たくするのは
少し気が引けたが
俺はすぐにそれを
行動に移した。



「政宗様、朝ですよ。起きてくださいませ」

朝、いつもどおり
小十郎が俺を起こしに
部屋にやってきた。
襖に映る見慣れた影に
俺は深呼吸をして
木刀を手に取った。

「政宗さ…、」

「HEY、聞こえてるぜ」

小十郎が開ける前に
自分から開け放つと
小十郎はスッと
目を見開いた。

まあ、当たり前か。
いつもなら絶対俺から
起きたりしねえし、
ましてやもう既に
寝間着から着替えて
いるなんて驚愕だろう。
ちなみに自分から
起きないのは俺を
起こしに来た小十郎を
布団に引きずり込んで
パワー補充する為だ。
そうしないと朝って
感じがしない。

「…随分、珍しいですね」

小十郎は動揺しながらも
やっとそう言った。
何気に失礼だなコラ。
いつものノリで
返してしまいそうになり
慌てて飲み込んだ。

「…俺だって自分で起きれる時ぐらいある」

出来るだけ小十郎と
目を合わせないように
しながら俺は声が
震えないように
気を付けながら
冷めた声色で呟く。

いつもと違う俺に
気づいた小十郎が
眉を寄せた。

「…政宗様?」

不安げな声が俺を呼ぶ。
悪い、小十郎。
心の中で謝りながら
俺は小十郎の横を
するりと通り抜ける。

「ま、政宗様。何処へ…」

「修行」

「ならば小十郎がお相手を、」

「No。もう幸村を相手に呼んでおいた」

「そう、ですか」

小十郎の声が
ぎこちなく揺れている。
予想以上の反応を
見せる小十郎に
内心酷く驚いていた。
少しでも気を緩めれば
身を翻して小十郎を
抱き締めてしまいそうだ。

必死に衝動に堪えながら
俺は逃げるように
その場から去った。
小十郎がどんな表情を
しているかなんて
考えたくもなかった。



――――――――……



「本当にいいの?竜の旦那」

「うるせえ。つーか、お前を呼んだ覚えはねえぞ。真田の忍」

「申し訳御座らん、政宗殿。双竜が夫婦喧嘩をしていると言うと付いていくと聞かなくて…」

団子を食べながら
頭を下げる幸村に
呼ぶ相手を間違えたと
俺は気付いた。
しかし夫婦喧嘩という
単語に少し頬が緩む。

「右目の旦那、絶対傷付いてると思うな〜」

なのに、すぐに
憎たらしい迷彩忍が
俺に釘を刺す。
小十郎が傷付いてる?
んなの分かってる。
分かってる…。

「右目の旦那、ああ見えて本当に竜の旦那一筋でしょ?今回のでもっと距離開いちゃったんじゃないの」

涼しげな笑顔で
言葉を並べる真田の忍を
俺は睨みあげる。
小十郎を隅から隅まで
知ったような口だ。
しかし奴は相変わらず
張り付けたような
笑顔を浮かべている。
そうか、お前も
小十郎狙いってか。

火花を散らす俺達を
見ながら団子を
食べていた幸村が
ふと動きを止めた。

「某、恋愛沙汰はよく分かりませぬが、片倉殿は政宗殿を誰よりも暖かな目で見ているでござる…ほら、今も」

「Ah?」

幸村は団子の串で
少し遠くにある
小十郎の畑を指す。
つられて向くと
畑にしゃがむ小十郎が
膝に頬杖をして
ぼんやりとこちらを
見つめていた。
目が合っても視線は
こちらのままだ。
本当に放心状態らしい。

「小十郎…」

「政宗殿には冷たく感じても、片倉殿の頭の中はいつでも政宗殿しかおられぬ」

「ほんと、主人馬鹿だよね…どっちもどっちだけど」

佐助が呆れたような
溜め息を吐くと同時に
小十郎はハッとして
俺から目を逸らす。
混乱しているらしく
慌ただしくその場で
ぐるぐる回り、
ついには畑仕事の道具を
そこに置いたまま屋敷の
中へと消えてしまった。

「あはは、可愛い」

俺はそう笑った忍に
怒る気にもなれず
ただ呆然としていた。






 
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