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□浮かれてしまいます
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…面白くない。
佐助は内心毒づいた。

文化祭の出し物が
コスプレ喫茶店に決まり
授業を潰して準備を
していたのだが、
佐助の目の前で騒ぐ
人だかりはますます
増えるばかりだった。

「very cute!」

輪の中心でひたすら
叫んでいる政宗と
その足元に座り込み
恥ずかしさに赤面し
耐えている小十郎。
そんな小十郎にはいわゆる
黒い猫耳と尻尾が
くっついている。

政宗の騒ぎっぷりに
集まったクラスの連中も
一緒になって小十郎を
囲んでいる。
女子は黄色い悲鳴を上げて
終いには男子は
可愛いを連呼しながら
携帯で写メを撮る。

小十郎のことが好きな
佐助としてはそれが
酷く面白くない。

「(はあ…右目の旦那の猫コスは可愛いけど他のやつらには見せたくないな〜。てか、政宗は違うクラスだろ…早く俺様の旦那から離れてよね…)」

騒ぎを遠くから見ながら
小さく舌打ちをすると
隣で同じように
騒ぎを見学していた
慶次が苦笑いを溢す。

「嫉妬してるなら、引き剥がしに行けばいいじゃん」

「簡単に言わないでよ」

引き剥がしていいなら
とっくにしてる。
佐助は小十郎をちらりと
見て溜め息を吐いた。
今頃時々思うこと。
小十郎は政宗のことを
好きなんじゃないか。

年の差はあるが
小十郎の政宗への愛情は
まるで恋人だ。
同じように政宗も
小十郎にべったりだ。
一部の女子の間では
付き合っているらしい、
手を繋いでいた、
キス以上はしてるとか
毎日根も葉もない噂が
繰り広げられている。

それを聞くたびに
苛々してしまう。

「小十郎!次の時間にも来るからな!それ付けとけよ!」

「ま、政宗様!」

佐助が沈んでいる内に
ご機嫌な笑顔で
嵐のように去っていく
政宗を小十郎は涙目で
すがるように見ていた。
政宗がいなくなった事で
ギャラリーも小十郎を
ニヤニヤと見つつも
作業に戻っていく。

すると小十郎は
凄い早さで立ち上がり
教室を出ていった。
思わず「あ」と呟くと
慶次が佐助の肩を
手でポンと叩いた。

「追いかけなよ」

迷いはあったが
小十郎が心配で
佐助は頷き教室を出た。

「やっぱ屋上、かな」

小十郎が行きそうな
唯一の場所。
息を切らしながら
階段をかけ上がる。
最上階に着いて
少しだけ薄暗い屋上の
ドアをゆっくりと開けば
やはりそこには一つの
影が縮こまっていた。

息を殺して背後から
小十郎に近づくと
鼻をすする音がして
ギョッと驚いた。

「(泣い、てる?)」

相変わらず小十郎の
頭には猫耳が揺れて
地面には尻尾が垂れて
耳朶がとてつもなく赤い。
可哀想だと思うべきだが
可愛いものは可愛い。
にやける口許はなかなか
押さえられなかった。

「(やっぱ政宗には渡したくないなぁ)」

自然と手が伸びて
小十郎を後ろから
やんわりと抱き締めた。

「あうっ!?」

小十郎は驚いたのか
すっとんきょうな
悲鳴を上げたが
それがまた可愛くて
佐助は声を上げて笑った。

「あはは、可愛い」

「え…ぁ、佐…助?」

腕の中で体を捩って
佐助を確認すると
小十郎はふにゃりと
柔らかく笑った。
さよなら理性…
満塁ホームラン。
佐助がよく分からない事を
心の中で叫んでいると
小十郎が慌てて猫耳を
手でサッと隠した。

「あ、ちょっと、なんで隠すのさ」

「…気持ち悪いだろ」

「そんなことないよ?可愛い」

「でもお前ずっと怖い顔…してたから」

「へ?」

「嫌われたと思った」

顔を真っ赤に染めて
俯いている小十郎。
ああ、成る程。
佐助はまた口許が
緩むのを感じた。

「俺様はずっとずっと小十郎しか見てないよ?嫌いになんかなるわけないじゃん」

お馬鹿さん。
そう優しく言えば
耐えていたのかぼろりと
大粒の涙が地面に落ちた。


浮かれてしまいます

(だって男の子だもん!)











 
 

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