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□溺れるように、恋
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今、俺がお前に抱く想い。
これがお前がよく語る
恋というものなら、
なんて厄介なんだろう。

「片倉さ〜ん!遊びに来たよ〜!」

毎日よく飽きずに来る
でかい犬のような奴。
今日も尻尾を振りながら
畑仕事をする俺の横で
ひたすらにくだらない
世間話を黙々と話す。

前までは鬱陶しいだけ
だったが今は違う。
何が変わったのかは
俺も、よく分からない。
この感情を俺は知らない。
コイツが来ると無性に
くすぐったくて
普通に接していたいのに
やたらと刺々してしまう。

それが何故かを考えれば
考えるほど分からない。
そんな間もその症状は
悪化してきてしまって
気づけば一日中慶次の
事ばかり考えている。
しかし慶次が会いに来ると
ろくに目も合わせられない。
選ぶ言葉も吐き出す声も
不自然極まりない。

はあ…と思わず溢れた
溜め息にハッとしたが
もう遅かった。
視界に鮮やかな髪が揺れて
次には心配そうな顔をした
慶次と目があった。

「どうしたの片倉さん。溜め息なんか吐いちゃって」

「……っ」

ああ、だからどうして
こうも頭が回らない。
目が合ってるだけなのに
体が固まってしまい
返す言葉さえ見つからない。
どうすればいいのか
分からなくなり
とうとう顔を俯かせて
視線を下に落とした。

「……片倉、さん?」

流石にいつもと違う
様子に気付いたのか
慶次の声色が変わる。
自分が情けなくて、
この空気が痛くて、
俺はキツく唇を噛んだ。
見るな、もう帰ってくれ。
今日の俺はおかしい。
そう、言わないと。

上手く動かない体を
無理矢理に動かして
なんとか顔を上げた。
でもやっぱり慶次を
見ることは出来ない。
乾いた喉で唾を飲み込み
ゆっくり口を開いた。

しかし、言おうとした
言葉は塞いできた口の中に
吸い込まれてしまった。
最初はなにがなんだか
分からなかったが
みるみる内に意識が
覚醒していく。
慶次の唇が俺の唇に
深く重なっていた。

目を白黒させていると
唇から感触が消えて
近すぎる距離で再び
慶次と視線が絡み合う。
余りにもその視線が
自分を射抜くように強くて
もう目は逸らせなかった。

「好きだよ、片倉さん」

目を合わせたまま慶次は
俺に優しく笑んで言った。
それが合図のように
みるみる俺は赤くなって
わなわなと震えた。
好きだよ、片倉さん。
間違いなくコイツは今
俺にそう言ったのだ。

「な、に…言ってやが、」

「気付いてなかったの?こんなに通いつめてるのに」

さっきまで無邪気な
笑顔だった慶次の表情が
一変して男の顔になった。
真剣でどこか色気があり
熱の籠った目をしている。
その表情に心臓が
破裂しそうなほどに
早くなるのを感じた。
伸びてきた指先が頬の
傷を愛しそうに撫でる。
心臓の音が五月蝿い。
なんで、こんなに。

「――っ、分から、ない」

「え?」

「変なんだ、お前といると」

未知の感覚が怖い。
その感覚を知るのが怖い。
それがなんなのか、
分かるのが怖い。

「お前が来ると、胸が苦しい。上手く息も出来ねえ。お前が帰ると息はしやすいが、もっと苦しい。お前はこの感情が分かるのか」

捲し立てるように早口で
言うと慶次は目を見開いて
固まってしまった。
なにか変な事を言ったかと
不安になったが暫くして
慶次はさっきよりも数倍
優しく微笑んだ。

「片倉さん、それ恋だよ。だからもっと俺のこと好きになって」

その言葉を理解する前に
また唇が塞がれた。
心なしか桜のような
甘い香りがした。
不思議と嫌ではなくて
逆に心地よくて無意識に
自分より逞しい背中に
腕を回して目を閉じた。

その時にどれほど慶次が
理性を殺していたか
まだ俺には分からなかった。











溺れるように、恋

(恋が愛に変わるまで)












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