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□やがて愛となる
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目が覚めると目の前に
あどけない寝顔があった。
ぼんやりとする思考の中で
それが愛しい人のものだと
理解すると無意識に
やんわりと頬が緩んだ。

片倉さんのいつも
皺があるぐらいに
キツく寄せられた眉は
今は力なく垂れ下がり
寝ている時さえも険しい
表情も珍しく穏やかだ。

しかしいつも綺麗に
撫で上げられている
片倉さんの髪は崩れて
乱れた服から見える
白い首には赤い花が咲き
太股には乾いてはいるが
昨晩の情事の名残が散る。
その姿が昨晩の行為を
生々しく思い出させる。

「激しくしすぎたかな…」

昨日、いつものように
片倉さんに会いに行くと
様子がおかしかった。
俺が見つめたら唇噛んで
俯いちゃったから
もしかして俺が来ると
迷惑なのかもって思った。

ずっとずっと。
ずっと前から好きだった。
だから毎日通った。
なのに片倉さんは
鈍感だから気付かない。
俺はその時決心した。
片倉さんに想いを伝えて
駄目だったら、
もう諦めようって。

片倉さんがふと顔を上げる。
何故か切なそうに、
少しだけ眉を寄せて。
俺は薄く開いた唇に
触れるだけの口付けをした。
もうしないからって、
最後だからって、
片倉さんの怒る顔に
謝る理由を考えながら。

唇を離して好きだと言えば
片倉さんは俺が想像していた
表情をしなかった。
顔を真っ赤に紅潮させて
真っ直ぐに俺を見つめて。

そして返ってきた言葉は
更に俺の理性を壊した。
片倉さんらしい告白だった。
今思い出してもニヤける。
やばいと思って
嬉しくて抱き締めたら
殴られると思ったのに
ぎゅって抱き締め返された。

ああ、神様。
もういいですか?

俺は自分の中の神様に
了解を貰ったことにして
片倉さんの首筋に
ねっとりと舌を這わせた。
すると小さく悲鳴を上げて
ひくりと跳ねた片倉さん。
なんとか繋いでいた理性は
跡形もなく消し飛んだ。

そこからはもう…ねえ?
部屋に引きずり込んで…
天国だったよ本当に。
想像してたより
片倉さんの顔がエロいし
腰細いし鍛えられてるし
反応いいし良い声だし…

「…おい」

昨日の行為を思い出して
ニヤニヤしていたら
いつの間にか片倉さんが
起きて俺を見ていた。
というより、睨んでる。
しかもかなり怖い。

「口に出てんだよ、全部」

「あ、ほんとに?」

どうやら上に書いた
ほとんどを言葉にして
呟いていたらしい。

「恥ずかしい奴だな」

怒った口調で呟く片倉さん。
しかしその顔は
昨日の行為を思い出して
赤くなっている。
ああもう、なんなのあんた。

「ね、片倉さん」

「…なんだ」

「もう、俺は恋を愛に変換しても…いいの?」

もう俺は片倉さんに
恋してる奴じゃなくて
片倉さんを
愛してる奴でいいの?
片倉さんも俺を
愛してる人でいいの?

「知らねえよ」

ぶっきらぼうな返事。
片倉さんらしい。
俺は笑って寝転んで
うとうとする片倉さんに
顔を近付ける。

「じゃあ、片倉さんがそんな事言えないぐらいにまた通ってあげる」

「…邪魔だ」

「でも、嫌じゃないよね?」

片倉さんがゆっくりと
瞼を降ろした。
意外と長い睫毛が目の前で
ふるふると震える。
昨日泣いたせいで
うっすら目元が赤い。

「…片倉さん、好きだよ」

「……ん」

「愛してる」

「……ん」

「ちゃんと聞いてる?」

「……ん」

「……シてもいい?」

「………」

「…ちぇっ」

まあ分かってたけど。
唇を尖らしていると
片倉さんが穏やかな
寝息をたて始めた。

「…寝ちゃった」

無理もなかった。
(多分)初めての人に
無理矢理激しくしたし…
しかも何回も何回も。
俺は一人微笑んで
眠るその人の頬に
静かに口付けを落とした。






やがて愛となる

(苦い初恋みたいな恋愛)










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