bl

□満月うさぎの憂鬱
1ページ/2ページ




まただ。
また居られない。
さっきまで隣の部屋で
執務をしていたはずの
政宗様がいなくなった。
というより、逃げた。
物音一つしなかったから
気付けなかった。

梵天丸様だった頃は
執務から逃げる時に
わざわざ逃げることを
大声で宣言したり
物音をたてたりして
捕まえるのは容易かった。
昔は馬鹿…いや、
可愛らしかったのに。

今となっては隙を見ては
物音をたてずに
仕事から逃げ出す。
捕まえようとしても
天井裏に隠れたりする。
ずる賢く…いや、
頭が良くなったものだ。

「チッ…」

誰もいなくなった部屋に
思わず舌打ちをする。
相手が殿様といえど、
仕事をしてもらわなければ
こちとら困る。
政宗様の為にもならないし
輝宗様にも合わす顔がない。

また…やるしかないのか。
気は乗らないが仕方ない。
俺は溜め息を吐きながら
部屋を出てそのまま
廊下に座りこむ。
そして大きく息を吸い込んで
城中に響くぐらいの
大声で叫んだ。

「政宗様ー!この小十郎、西海の鬼に喰われてしまいますー!お助けくだされー!」

見事な棒読みだったが
暫くして怖いぐらいに速い
足音が遠くから聞こえた。
呆れつつそれを確認すると
俺は部屋の中に戻った。
その足音はあっという間に
部屋の前までたどり着き
スパーンと襖が開いた。

「小十郎ぉおお!!無事かあああ!!俺が来てやったからもう大丈夫だ!!くぅおるぁあ元親あああ!!テメエ許さね………Ah?」

「覚悟は出来てますか?…まあ、出来てなくても関係ないんですけど」

今、政宗様の目には
とてつもなく黒い笑顔の
俺が映っているのだろう。
状況が分かってきたのか
政宗様の表情がだんだんと
ひきつっていく。
ざまあみr…いや、
ざまあみやがr…いや、
ざまあみやがって下さい!
………変わってねえか。

綺麗な回れ右をして
逃げようとする政宗様。
しかし外からは頼んで
なにがあっても開くなと
部下に押さえさせている。
よし、圧勝だ。
びくとりーだ。

逃げられないと察した
政宗様は暫く黙った後に
勝ち誇る俺を振り返る。
…ん?ちょっと待て。
何故ニヤけている?
何故鼻血を出している?
なんだそのわきわきした
気持ち悪い手つきは。

思わず後退りすると同時に
政宗様が一歩踏み出す。
じりじりと確実に
距離が縮まっていく。
なんだこれは。
なんなんだこれは。
よく分からんが不味いぞ!

「っテメェら!開けろ!襖を開けろおおお!」

どうにか逃げねばと
襖を閉めている部下達に
叫ぶが「すいません!」と
謝罪が返ってきた。
なぜ謝る?
なぜ開いてくれない?

「俺が命令した」

俺の考えが分かったように
政宗様がニヤニヤと
笑いながらそう言った。
そして俺はやっと自分が
はめられたと気付いた。
騙すつもりが騙された。
初めからこうするつもりで
政宗様は逃げ出したのだ。

「覚悟は出来てるか?俺は出来てるぜ?」

人の台詞パクんな。
ちくしょう。












満月うさぎの憂鬱

(独眼竜に喰われるの巻)















後書き→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ