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□kiss me!
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季節はまだ寒い2月。
しかしそんな寒さも
忘れるほどに街はすっかり
バレンタイン一色だ。

コンビニやスーパーには
市販も手作り用も
沢山並べられていて
子供から大人までの女性達が
楽しそうに選んでいる。
今日がそのバレンタイン
当日なだけに人も多い。

そして、それを遠くから
眺めながら俺は迷っていた。
学校へ行った政宗様を見送り
スーパーに晩御飯の
買い物をしにきたけれど
今、酷く迷っていた。

一歩その人だかりに
踏み出しては、戻り
踏み出しては、戻る。
それをずっと繰り返す。
俺の頭の中には
バレンタインと政宗様という
単語ばかりが飛んでいた。

「(やはり、恋人なのだから…あげるべきなのだろうが…)」

男から男になど。
恥ずかしくて買える訳がない。
あの中に入っていく
勇気も、ない。
だが政宗様はきっと
貰えるのを楽しみにしている。
学校に行く前だって
「バレンタインか…」なんて
呟いて溜め息を吐いていた。

俺も出来ることなら
政宗様にチョコを渡して
喜んでもらいたい。
それに、イ、イチャイチャ
していたいし………って
なに考えてんだ俺!

赤面しながらその場を
ぐるぐると回る。
はたから見ればただの
怪しい人なのだが。

俺は一つ深呼吸をして
再び人だかりに踏み出すが
やはりそこでやる気は
急速に萎んでしまって
足はゆっくり後退りした。

「(……政宗様、)」

今日学校から帰ってきた
政宗様が悲しそうに
しているのを想像して
俺はぐったりと落ち込んだ。
情けないやら悲しいやらで
泣きたくなる。

「(俺が、女だったら)」

政宗様に堂々とチョコを
あげられるのに。
政宗様にもっと素直に
なれているのに。
子供、だって………。

嘆いても仕方ないけれど
やっぱり哀しくて
俺はとうとうその場を
早足に去っていった。






 
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