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□ビターで十分だ
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「あのっ、これ受け取ってください!」

夕焼けに照らされた屋上で
目の前に差し出された
リボンの付いた箱。
いきなり呼び出されて
何事かと思えば…、
俺は内心溜め息を吐きつつ
受け取らないのも酷だからと
それを手に取った。

耳まで真っ赤にして
固まっていた女子は
その瞬間なにやら分からない
嬉しそうな悲鳴を上げて
ぺこりとお辞儀をすると
屋上から出ていってしまった。

階段を降りる音が
ドタドタと複数だったので
友人達がずっと様子を
伺っていたのだろう。
それを見送りながら
ピンク色の箱を見て
今度は本当の溜め息を吐いた。

「食いきれねえ」

今日は結局1日中
チョコを貰ってばかりだ。
これで何個目だろうか。
気持ちは嬉しいし
甘いものは好きだが
流石に量が多すぎる。

「チッ…」

真田にでも分けてやるか…
アイツもそれなりには
貰っているんだろうけど。
そう決めると重たい足取りで
自分も屋上から出ようとした。

しかし、いきなり開いた
ドアから自分の胸の中に
飛び込んできた男に驚いて
再び体は屋上側へと傾いた。
固い地面に腰を打ってしまい
じんじんと痛む。

俺が痛がっている間も
その男はぐりぐりと
胸板に顔を押し付けてきて
正直良いものではない。
髪の毛がくすぐったい。
俺はなるべく優しく
そっとその身体を離し
男に困ったように笑った。

「政宗様、」

「Ha!探したぜ小十郎!」

「…学校では先生と呼びなさいと言ったでしょう」

「いいじゃねえか、二人きりなんだし固いこと言うな」

政宗様は満面の笑みを
浮かべて離された体を再び
俺にくっつけた。
引き剥がすのを諦めて
俺はされるがままに
大人しく抱き締められた。

「ところで、どうされましたか」

「Ah、毎年恒例のアレの結果を聞きにきた」

毎年恒例のアレ。
それを聞いてああ、とぼやき
俺は今日の朝からの記憶を
思い出し始める。
確か…俺の記憶だと、

「少なくとも50個は…」

「!?」

目の前の政宗様の笑顔が
ぴしりと固まった。
次第に体がわなわなと震えて
ついには政宗様は立ち上がり
大空に向かって叫んだ。

「また負けたあああああっ」

「そうですか」

毎年恒例のアレとは
貰ったチョコの数を
競い合うというもので
政宗様が高一の頃から
飽きずに行っている。
政宗様の提案で負けた方には
なんでも命令できるという
ルール付きのそのゲームは
3年連続で俺の勝利だ。

「shit!今回は勝てる自信あったのに…っ!小十郎は毎年毎年貰える数が馬鹿みてえに増えて追い付けねえよっ!」

「そうですか…?ところで政宗様は何個でした?」

「…38個だ」

「良いじゃないですか」

「良くねえよ!今年こそは勝って小十郎とチョコプレイをenjoyするつもりだったのに…」

涙をキラキラ流しながら
地面にがくりと項垂れ、
本気で悔しがる政宗様に
俺は勝って良かったなと
ぼんやり思った。

「…で、小十郎。命令はなんだ?同じのは止めろよ…」

確か去年は私語もサボりも無く
真面目に授業を受けろと
命令したような気がする。
それは当たり前のことだが
問題児の政宗様には
キツかったらしく
今は慣れているが
当初はゾンビみたいに
げっそりとしていた。

そしてその前は
テスト前になったら
情事禁止で勉強令を出した。
その時も政宗様は
やはりげっそりとしていて
なにかに取り憑かれたように
勉強をしていた。

おかげで政宗様の成績は
申し分無いほどになったが…

「小十郎………」

なんだか今にも
泣き出しそうな表情で
俺を抱き締める政宗様に
流石に良心が痛む。
…と良いのだが全然だ。
何故かというと政宗様の
両手が俺の尻をわし掴み
むにむにと揉んでいるからだ。

「…あの、政宗様?」

「なあ、命令してくれよ。『こじゅは政宗様と屋上でチョコプレイしたいです』って」

心無しか政宗様の息が
ハアハアと荒い気がする。
なんだ、キモいぞ。

「小十郎…ほら、言ってみな?お前も本当はしたいだろ?」

「………、」

政宗様がさっきの時に
なにもしてこなければ
してもいいなんて思った
俺が馬鹿だった。
俺はスッと立ち上がると
政宗様から少し距離を置いて
思い切り走り出した。
そして、飛び蹴り。
ぶっ飛んだ政宗様に
俺は笑いながら屋上を出た。

「今回は順位3位以内に入らないと別れることにするか」

俺と政宗様に甘い
バレンタインが来る日は
まだまだ程遠い。













(まあ、それはそれで…)


















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