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□溶けてしまいたい
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2月14日。
それは恋人達にとって
大切な行事の一つ。
だから実は期待してた。
愛しい照れ屋の恋人から
貰えたりするんじゃないか、
なんて思ったり。

「でも、やっぱり簡単にはいかないよなぁ」

制服のネクタイを外して
ベッドにダイブする。
布団に顔を押し付けながら
今日の学校での事を思い出す。
いつものように綺麗な
スーツを着こなして
教室に入ってきた俺様の恋人。
片倉小十郎、先生。

今日も可愛いな〜なんて
ニヤニヤする俺様。
しかもバレンタインだから
ますます口許が上がる。
すっかり俺様はチョコを
貰う気満々だった。

しかし、それは
あっさりと打ち砕かれる。

授業や昼休みが終わっても
小十郎さんはいつも通り。
学校が終わってから
貰えるもんだと思って
放課後に職員室を覗いたが
その姿は無かった。
他の先生に聞いたら
もう帰った、と言われた。

そのあとは死人のような
顔でフラフラ帰宅した。
すれ違う人にびくりと
怖がられてしまうほど。

だって、だってさ!
バレンタインに恋人から
なにもなしって!
流石の俺様もそれは!

「う〜………」

あの堅物のことだから
バレンタインの日を
忘れてたとか可能性あるけど
それはそれで酷い。
そんなのクリスマスを
忘れるようなもんだ。

「やっぱり欲しかったなあ…小十郎さんのチョコ」

今日は何人かの女子から
チョコを貰った。
でもその女子達には悪いけど
全然嬉しくなかった。
小十郎さんからだったら
同じ物でも価値が変わるのに。
チョコはそんなに
好きな方じゃないけれど
小十郎さんがくれるなら。

「…………はあ」

深い深い溜め息を吐いて
だらりとうなだれていると
玄関のドアがガチャリと
開いた音がした。
あれ、鍵閉めてなかった?
合鍵持ってるのは
小十郎さんだけだし…。
でもあまりのショックで
頭がよく働かない。
なにもかもがダルくて
俺様はそのまま瞼を閉じた。

暫くするとドアが閉められて
足音が一定のテンポを
刻みながら廊下を歩く。
それは真っ直ぐに俺様の
部屋に向かってきて
迷いもなくドアが開けられた。
そして響いたのは
俺様の大好きな声だった。

「猿飛」

「どわああああ!?」

声だけで分かった。
小十郎さんだと。
驚きで叫び跳ね上がると
小十郎さんは呆れ顔で
ゆっくり近寄ってきた。

「お前なあ、来た人ぐらい確認しろ。泥棒だったらどうすんだ」

「ご、ごめん…じゃなくて!なんで!?」

「俺が来たら悪いのか」

「そうじゃなくて…っ」

会話がもどかしくて
身振り手振りしていると
小十郎さんが小さく笑った。
その笑顔が可愛くて思わず
ピタリと動きを止めると
俺様の顔になにかが直撃した。
地味に痛い。

ふとそれを見ると、
黒いストライプの綺麗な紙で
包まれた四角い小さな箱。
その瞬間、痛みなんて
どこかに吹っ飛んだ。

「これ…っ」

「…開けていいぞ」

頷いてそれを開けば
今日一日中待ち焦がれていた
ものが姿を見せた。
丸い形のトリュフが
綺麗に並べられていた。

「小十郎さんっ!」

ありがとう!
俺様は思い切り小十郎さんに
飛び付いて抱き締めた。
いてぇ、と言いながらも
小十郎さんは笑っていた。
そこでふとある疑問。

「そういえば、なんで学校で渡してくんなかったの?」

「ばっ…学校で渡せるわけあるか!誰かに見られる!」

「いーじゃん見せとけば。俺様ずっと待ってたんだよ?放課後は勝手に帰ってるしさ〜」

強く抱き締めながら
ブーイングをしていると
小十郎さんがいきなり
赤面したのが分かった。
少し体を離して顔を見ると
やはり赤面している。
ああもう…可愛いな。

「あの時は、シャワー浴びに、帰ってて……」

「シャワー?なんでわざわざ?」

「……そ、れは」

小十郎さんは下を向いて
口ごもっていたが
決意したような面持ちで
再び俺様を見上げた。
その目は熱を帯びたように
柔らかでうるうるとして、
一瞬情事の場面が頭を過る。

それと同時に小十郎さんが
スーツの上着を脱ぎ始めて
俺様はそれをポカンと
眺めるしかない。
小十郎さんはシュルリと
ネクタイを外すと、
視線を泳がせ赤面したまま
俺様の耳元で言った。

「今日はお前の好きなようにさせてやる」

「え………」

今、なんて?
もしかしたら俺様の幻聴かも
しれないから聞き返せば
「何度も言わせんな!」と
怒鳴られた。
それでも俺様の頭の中は
すでにピンク一色。
夢じゃないよね?

「……いいの?」

「聞くなそんなことっ」

あまりの恥ずかしさで
弱々しくなった声色に
俺様は神様ありがとう、と
心から感謝した。
バレンタインって偉大だ。






 
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