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□雨と無知
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「降ってきたな」

ぽつりと呟いた政宗に
つられて小十郎は
携帯に伸ばしかけていた
手を止めて窓を見た。

朝は雲一つ無く
綺麗な碧だったのに
いつのまにか広がった
暗く曇った雲から
いくつもの細い線。
ザーと止まる事なく
鳴る水音がかなり雨が
激しい事を語っている。

「帰りますか?」

「No。今日中にコレ終わらせねえと後で怖ェのはお前も分かってんだろ」

「…それもそうですね」

小十郎はつい30分程前に
にこやかに笑いながら
押し掛けてきた担任の
松永を思い返して
苦笑いを浮かべた。

政宗が苦戦しながら
書いているのは反省文。
それを監視する様に
頼まれた小十郎。
お互い逃げられずに
雨で薄暗い教室に居る。

「しかし、自業自得ですよ政宗様。授業を抜け出して小十郎の教室に来るなんて…」

「Ah、分かってる」

でも、どうしても
会いたくなったんだ。
仕方ないだろ?
と、真顔で言う政宗に
小十郎は顔を赤くした。
時々政宗は心臓に悪い
言葉を平然と言う。
流されてたまるかと
我慢はしてみるのだが
いつも最終的に政宗の
手の内にいるのだ。

目を泳がせながら
どぎまぎする小十郎を
政宗はニヤニヤと
笑いながら見つめる。
それが悔しくて睨むと
政宗のにやけ顔は一層
深くなった。

「HEY、小十郎」

「駄目ですっ!」

「…まだなんも言ってねぇんだけど」

「どうせまたろくでもない事をお考えでしょう!顔に書いてあります!」

「チッ」

本当にろくでもない事を
政宗は考えていたので
ただ唇を尖らせた。
しかし少し考えた後
再び口許を上げた。

「なあ、小十郎」

「しつこいですよ」

「違ぇって。今日は小十郎と相合傘で帰りてえなって思って」

「…あれは男女でやるもの、かと」

「関係ねーよ。俺は小十郎としたい」

「…っ、」

また顔を赤らめて
目を泳がせ始める小十郎。
それを見るのが
政宗は好きだった。
しかし政宗がそれを
楽しんでいるのを
知っている小十郎としては
かなりバツが悪いのだ。

「なあ、小十郎」

名前を呼ばれてつい
顔を上げれば政宗と
ばちりと目が合って
思わず息を止めた。

「駄目、か?」

そう困った顔で笑う
政宗に言われれば
もう、何も言えない。
狡い、と小十郎は
心の中で呟いた。

「…今日だけ、です」

嗚呼。
どうにもならない。













(逃げられない甘い罠)













 
 

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