bl

□神様失笑
1ページ/5ページ




畜生、大嫌いだ。
そう呟き続けて
どれ程経ったのか。

歯を食いしばりながら
何度も机の上の
紙一枚を睨み付けるが
そこに並べられた数式は
見た覚えもない。
カチカチと時計の針は
黙々と進んでいく。
もうチャイムも
鳴らない時間帯だ。
時間は残酷すぎる。

「…っ…はあぁあ…」

溜めに溜めた深い深い
溜め息を吐いて
とうとう頭を抱えた。
それと同時に教室の
ドアがゆっくり開いた。
俺を馬鹿にしている様に
のんびりと歩いてきて
頭を抱えて動かない
俺の目の前で止まった。

コイツが誰かなんて
分かりきっている。
畜生、大嫌いだ。
そう声に出してコイツに
叫んでやりたいぐらい
俺はコイツが大嫌いだ。

「少しは進んだかね?」

松永。
数学教師。
ウチのクラス担任。

笑いを孕んだその声に
苛々は更に募る。
俺が出来るわけないと
知っているくせに一々と
聞いてくる最低な奴。
本当よく教師やってんな。
プリントを取ろうとした
松永の手を払いのけて
俺は思い切り睨み上げる。

「ふざけるな…進んでる訳ねえだろ。教科書も無しに解けるかよ」

「おや、ちゃんと私の授業を受けていれば解ける問題なのだが?」

最もな事を言われて
言葉に詰まった俺に
松永は愉快そうに笑う。
やっぱり大嫌いだ。
それでも言い返す言葉が
見つからなくて
視線を落とすしかない。

今頃、政宗様によく
屋上に呼び出される。
行ってみれば内容は
くだらない事ばかりだが
嫌では無かった。
会いたくなったから呼んだ、
そう言われた時なんかは
素直に嬉しかった。

キスだってしたし
体だって重ねた。
それは政宗様だから
許せる事なのだ。
だから呼ばれたら
たとえ授業中だとしても
なにか理由を付けては
抜け出していた。

そしてある日久々に
呼び出しはなく、
松永の授業を受けた。
突然の小テスト。
勿論一問も分からずに
ほぼ白紙で出した。

そして今日の放課後
松永から呼び出され
再テストを余儀なくされた。
しかも教科書と携帯は
没収されてずっと
分からない問題と
睨み合っているのだ。

「今まで再テストなどした事のない卿が一体どうしたのかね?成績も全体的に下がってきている様だし」

わざとらしい。
ニヤニヤと笑いながら
松永が首を傾げる。
小テストもきっと
俺がいるのを狙って
行ったものだろう。
どこまでも意地汚い。

「まさか、卿の成績が落ちたのは、あの独眼竜のせいかな?」

政宗様の名前が出て
一瞬驚き固まったが
まるで全てが政宗様の
せいと言うような言葉に
一気に血が昇る。

「…松永ァ…俺を責めるのは良いが、政宗様のせいにはするな!」

「ほう、やはり屋上で激しく愛し合っているだけの事はあるな、右目よ」

「な…っ!」

「おっと失礼」

赤面して驚く俺に
口が滑ってしまった、と
笑う松永の目は全てを
見透かしている様だ。
いや、コイツは全て
知っているのか。
だとしたら、最悪だ…。

気まずい沈黙の中で
それを遮ったのは
携帯の着信音だ。
松永は溜め息を吐くと
ポケットから没収した
俺の携帯を取り出した。
スライド式の携帯の
画面には政宗様の
名前が浮かんでいる。

「政宗様…っ!」

「さっきから卿の恋人からの電話がしつこくてね。全く、五月蝿いものだ」

いつも一緒に帰るのに
政宗様に連絡も出来ず
松永に携帯を取られた。
時間になっても来ないから
心配しているのだろう。

待ち合わせ場所である
校門がここから見えるのを
思い出して慌てて
窓まで駆け寄ってみると
やはりそこには
政宗様が壁に寄りかかり
携帯を弄っている。

こんな時間になっても
待っていてくれた
政宗様に思わず
頬が緩むのを感じる。
とにかく今日は一緒に
帰れない事を
伝えなければ。
ここからなら大声を
出せば届くかもしれない。

窓の鍵に手をかけた。
その瞬間に手首を突然
強く引かれて身体が
大きく傾いた。

「右目。卿には今、2つの選択が残されている」

その声にハッとした時には
拘束する様に松永が
後ろから俺の動きを
封じ込めていた。
慌てて暴れてみても
強く掴まれた手首と
絡み付くように腰に
回された手はほどけない。
俺の中に焦りが生まれた。

「なんのつもりだ…っ!離せ!」

「1つ目の選択は、このプリントを完璧に解いて帰ること」

「出来るわけねえだろ!」

「ならば卿には、もう1つの選択しか選べないな…?」

表情は見えないが
松永があの嫌な笑みを
浮かべていると分かる。
嫌な予感がした。
冷や汗が背中を伝う。
松永は固まっている
俺の耳元で低く呟いた。

「私に抱かれろ」

「――――ッ!」

絶望的だった。
俺がそれしか選べないと
知っているくせに
俺が逃げられないと
知っているくせに
俺には政宗様がいると
知っているくせに。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ