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「おかえりなさい、いつもよりも帰りが遅いから心配したわ。
…あら。太裳?」
「この書物を牡丹だけではと思って、一緒に来ました。
お久しぶりです、早苗様。」
「ありがとう。その机に置いてもらえる?」
「はい。それから、身体の具合が良くないと聞きましたので勾陣より、これを預かってきました。」
それは小さいころカゼを引くと必ず飲まされた薬だった。
苦いが良く効くのでうちでは重宝されている。
またこれを飲む時が来ようとは…
「牡丹、彰子さまのお相手をしていてくれる?
調べることがあるから…」
牡丹の足音が聞こえなくなるのを確認して、早苗は机の前に座り、海山経を読み始めた。
「早苗様。」
「なあに、太裳。」
「お体の具合は?」
「少しきついけど…やっぱり気になるから。
あ、そうだ。太裳、悪いけど終わるまで待っていてくれる?」
「ですが…」
「おじい様のところに戻らなくてはだめ?なら後で他の誰かを…」
「早苗様っ」
「っえ?」
穏やかな気性の太裳が、少し声を荒げる。
びっくりして書物から顔を上げると、あきれたような表情をした太裳と目があった。
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