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「ねえ、早苗…」


「どうされました?」


ある日の昼下がり、彰子が早苗のいる部屋を訪れた。
今にも泣きそうな彰子を見てただならぬ何かを感じた早苗は、ひとまず彰子の部屋へ行き、人払いをした。
あれから異邦の妖魔の襲撃はない。結界も安定して張られている。


完全に人の気配が無くなるのを確認してから、早苗は彰子に話しかけた。


「彰子様、お話し下さい。」


「早苗は圭子様のことは知っているわよね?」


彰子姫の遠縁の姫君、圭子姫。
何度か合ったことのある姫を思い出す。


「ええ。何度かここへもいらっしゃった方ですね?彰子さまの遠縁の姫君。
私もお会いしたことがあります。」


「今日の朝方、そこに…」



そう言って彰子は庭先を指差す。


「圭子様が?」


来るという先ぶれの文はなかったはずだ。
夜明け前に来るだろうか…


「でね、圭子様の後ろに何かがいるの。
この間の妖に似た感じの…」


それと、と彰子は螺鈿の筥を持ってきて開ける。


「これ…おじい様の…どうしてこんな…」


筥から取り出されたのは数珠であった。
三つの勾玉がついていて、その勾玉は白く濁りひび割れている。
晴明が彰子に渡したものだった。

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