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「牡丹…?」
夕方から彰子姫の部屋にいる牡丹の気配が全くない。
「牡丹、出てきなさい。」

どんなに小さな声にも牡丹は反応する。だが、なかなか出てこない。
彰子姫の部屋で一世に眠っているのかもしれないと考えた早苗は彰子姫の部屋を確かめた。




「彰子様?」


部屋の中には誰もいなった。
彰子姫が外に出たという形跡だけが残っている。


「牡丹、どうして…?」
なぜすぐに知らせなかったのか。
だが、その考えよりも先に体が動いた。
自室に戻り衣装箱の奥から一着の衣を手に取りそでを通す。

その衣は昌浩がよく着ている狩衣によく似たもので、安倍の二番目の兄である昌親からもらいうけたものだった。
長い髪を一つにくくりあげて他の女房たちを起こさぬよう、静かに屋敷の外へとでる。

(私としたことが。
外ばかりに気を取られて…彰子さまが普通のお姫様じゃないって分かってたはずなのに…)

妖怪が来たような形跡は全くなかった。だから彰子姫の足で外に出たとするとまだ遠くには行っていないはずだ。
それに、もうすぐ丑の刻。はやく結界の中に連れ戻さなければならない。



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