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東三条邸を飛び出すと、あたりは闇で包まれていて何も見えない。
ここで普通の娘は動けなくなってしまうだろう。だが、早苗は普通の娘ではない。
安倍の娘だ。
昌浩のように晴明の後継者と言われていなくとも、陰陽師の家系に生まれ、晴明や父吉昌、それに二人の兄の間に育った。
神将たちも身近にいる環境が早苗にとっての普通だ。
その娘が、暗闇や妖、その類の連中に会っても驚きはしない。




すぐに暗視術をかける。すると、暗闇の中でも視界が広がった。
「彰子様はどこまでいったのかしら…」
少女の足で、この闇の中。いくら彰子姫でも近くにいるだろう。


チリン。
足元に何かがまとわりつき、そのまま肩に上る。聞きなれた鈴の音が鳴ったので牡丹だと気付くのに時間はかからない。

「どこにいたの?彰子様の腕から逃げられなかったの?」

にゃーと一声鳴くと顔を擦り寄せてくる。
『ごめんなさい』が言いたいのだろう。
自分の役目が果たせなくてかなり落ち込んでいる。
「大丈夫。牡丹のせいじゃないのよ。私が油断していたの。
彰子様と一緒にいてくれてありがとう。」


結界を強化したから大丈夫だと思っていた。だが、結界を自分から出ていくなんてことは思ってもみなかった。

「はやく、探して連れ戻さないと…」
牡丹が戻ってきたということは彰子も近くにいる。
そう信じて暗闇に足を踏み出そうとした。が、それは一瞬で崩れた。




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