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『下がれ。』
彰子姫の周りにたかっている妖異たちが渋々下がった。
それだけの絶対の響きを含んだ命令。
自分たちを連れてきた二つの妖異が彰子のそばへと寄った。
『おのれ、破邪の香を身にまとっているとは…』
『これでは主に献上できぬぞ。なんとする鵔。』
大きく周りを見渡す鵔と呼ばれた片方が、近くにいた小さな妖異を目にとめる。
『長蛇、来るが良い。』
びくり、とした長蛇がおずおずと震えながらも前へ出る。
『お前は、主のために身を捧げられるか。』
声が出ない長蛇はうなずき、首肯の意を示した。
『そうか、よい心がけだ。では、死ね。』
後ずさろうとした長蛇を捕まえ、容赦なくその身を引き裂く。
引き裂かれた箇所より流れ出た長蛇の血は彰子姫の衣を染めた。
(香の効力が消える…)
しばらく様子を見ていた早苗であったが、我慢ならなくなり苦しい身体を無理に立たせた。
「姫に・・触れるな。」
短く印を切り、うじゃうじゃといる妖異たちに術を向ける。
『女房、目覚めていたか。やはりお前も主へ献上しよう。
その力を糧に主は復活する。』
「嫌よ。姫を連れて帰る。」
『小娘ごときに何ができる。』
『鵔よ、我はあの娘を始末しよう。少々煩い。』
『鶚、たのんだぞ。こちらの娘にはまだしばらく眠っていてもらおう。』
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