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□略奪愛上等!
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「あー、行きてぇ!なーんで居場所は分かってんのに行けねえんだっ!」

魁童の魂からの叫びは崩月山に響き渡り、辺りの樹々から鳥達が一斉に飛び立った。
でなきゃ何でむさっ苦しい男二人でなんか、とまだぶつくさ文句を言い続ける魁童を祢々斬はジロリと睨んだ。

「お前は馬に蹴られたいか?」
「実際に馬が蹴るんならなっ。普通に消されるから止めてんじゃんか…」

無月に相当修行を積みきった彼女。
邪魔した結果、不興を買って手を組まれようものなら、自分達と言えど確実に死ねる。
分かってんならもう言わないことだ、と言う祢々斬を魁童は膨れっ面で睨んだ。

「でもさ、でもさあっ!当て馬みてえで何かムカつかねえ!?」

無月の一件で尽力したし、時には自らも賭けた。
けれど、どんなに頑張って見せても恋愛の枠に納まっているのは無月で、彼女の中で自分達は友達や親友の枠の中でしかないのだ。
口を尖らせて、なあ、と返事を促すと祢々斬はフン、と鼻で笑って、全然、と返した。

「なっ!」
「じゃあ訊くが、お前は当て馬に納まる気か?」

思わず顔を上げると、祢々斬の試すかのような表情と目が合う。

「俺は今あいつを無月に預けてる、ま、いつかは俺が迎えるつもりだがな。お前は違うか?」
「っ、俺だって!」

そうだ、当馬に納まるなんて真っ平御免だ。
からかうような祢々斬の口調に、魁童は噛み付くように叫んだ。

「当て馬なんてやってられっか!あいつは俺のだ、譲ってなんかやるか!」
「そうだ、生きている限り止まった心なんてない、機会は必ず来るんだ。迎えに行く機会がな。」

それに難攻不落なんて面白いじゃねえか、と笑う祢々斬に魁童は、ニイ、と口を歪めた。


『俺の元に来させてやる』


二人は向き合うと、声を揃えて言った。




「ま、最後に笑うのは俺だがな」
「何をーっ!」

くるりと背を向けてぽつりと呟いて立ち去る祢々斬を、その言葉は聞き捨てならないとばかりに魁童は追いかけた。



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