読本

□「結界」への弁明
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突如襲われた睡魔の最中、私はぐるぐると出口のない思いを抱えて途方に暮れていた。


あんな瞳を見たくなかった。
憎悪を宿す瞳は絶望に揺らいでいて、ひどく胸を締め付ける。

―けれど、諾なんて言える訳が無い。

月讀さんに従っている久遠の前で言う事は、つまり祢々斬をさらに追い詰める事だ。
泣き叫ぶ心と裏腹に、冷たい言葉を紡ぐ自分の口が恨めしかった。


そして、何よりも祢々斬が吐き捨てるように言ったあの言葉。
それが何より辛かった。



―お前らは、鬼以下のクズだっ!



そんな言葉を、祢々斬の口から聞きたくなかった。

鬼以下の、この言葉に宿った懊悩や絶望に泣き叫んでしまいたかった。
撫でる手は優しさに満ち溢れているのに。
それが慈しむものを切り裂く絶望は、どれ程深いものだろう。



―…私は無力だ。



苦痛を和らげるどころか、更なる苦痛しか生み出せないなんて。
心の奥底に浮かぶ虚無感に涙を零す。
それが夢と現のどちらに滴ったのかは分からなかった。



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