読本
□イベント発生条件。
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ある日。
彼女はまだ目を覚ましていないだろう。
寝ぼすけの彼女を起こす事もまた日課だった。
「こら、起き…っ」
襖をすぱっと開くと、目の毒な光景が広がっていた。
着崩れた合わせから覗く胸元や腿は非常に目のやり場に困る。
目を閉じてすぅと息を吸い込み、叫ぶべく大口を開けた。
またある日。
今日もきっとまだ夢の中の彼女を起こすべく、襖をすぱっと開けた。
「きゃあっ!急に開けないでっ!」
まさか起きているとは知らず、急いで襖を閉じる。
よもやきちんと起きた上に、準備をしていようとは。
感慨深いものはあるけれど、それよりもこの後のお怒りの方が問題だ。
きっと、暫くは恨みがましい目で見られるのだろう…。
またある日。
「ねえ…一緒に寝ない?色々話したいし、聞いて欲しいんだ…」
枕を抱えて来たのだから断るとは思ってもないだろうに、それでも不安そうに彼女は言う。
きっとこれは、日中も心在らずだった事と関係しているのだろう。
布団を持ち上げて入るように促すと、彼女は嬉しそうに笑った。
「…のお魁童、せっかくあやつが人間になる方法を見つけたんじゃ。人間になってこっちに来んか…?」
「くっ…で、出来るかっバカヤロー!」
人間になり、傍に居られる事で得られるものは非常に魅力的だったが、応じる訳にはいかない。
好きな女と居られるのは願ったりだが、この提案に乗れば何かを無くす。
主に尊厳的な何かを。
魁童はぐらつく気持ちを抑えて叫んだ。
なんて卑怯な提案をして来るんだと思いながら、余りにも具体的だった内容にはたと気付く。
どうしてそこまで具体的に話せるのか、その理由に思い当たった魁童は無言でそっと久遠の背後に立つと、鋭く爪を尖らせた。
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