BBテルハク短文・メモ

□同族嫌悪
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※CS家庭用ストモ終了直後




同族嫌悪







「ま〜だ結託してるんですかァ? あなた達」
白い背を見送って暫し、背後に現れた気配にレイチェルは眉を寄せた。
明らかにハクメンが去ったのを見計らったタイミングで声を掛けてきた男の方へ、レイチェルは振り返る。
「しばらくは、見なくて済むと思ったのだけれど。何の用かしら? 坊や」
「いや〜、私もテメェみてェな、まな板のお子ちゃまとツラ合わせたくはなかったんですがね。どうしても気になることがありまして、嫌々声を掛けてみました」
「あらそう。どうやら今すぐ、消滅させられたいみたいね。私は構わないわよ?」
黒いコートをたなびかせ、満面の笑みを浮かべながら汚い言葉を発するハザマに向き直り、レイチェルはヴァルケンハインを呼ぼうと軽く手を上げた。
しかし、つい先日得意げにタカマガハラを掌握した態度とは逆に、ハザマは情けない顔を作り、慌てたように制止する。
「せっかちさんですね〜! 別にここで殺ろうってわけじゃないんですから、物騒なことはやめてください。ちょっと世間話に来ただけですって」
「あら、遠慮しなくてもいいのよ。あなたを消したいと思っている者には、事欠かないのだから。試しに、第七機関へ転送してあげましょうか?」
「あはは、おっかないですね〜このクソ吸血鬼は。……ま、私もファントムを呼ぶだけのことなんですが」
付き従う黒猫とコウモリとともに睨むレイチェルに、ハザマは隙のない構えのままニコリと笑む。
暫く沈黙し、互いに今仕掛けるには不毛だと理解した。
「お馬鹿なお猿さんの為にもう一度言うけれど、何か用かしら?」
「いや〜有難い! クソ吸血鬼が寛大で助かりました。……ええ、だからいつまでテメェら仲良しごっこやってんの?って質問です。年寄りは耳が遠くていけませんね」
ハッと肩を竦めて笑い、ハザマが最初の言葉を繰り返す。
苛立ちしか感じられないその言動に、しかしレイチェルは意図を読んでクスリと笑った。
「ああ……英雄さんが私の下僕になってることが、気に食わないのね」
「テメェの下僕じゃねェよ。最初っから、あのガキは俺のもんだし。ちょっと仲間のフリしたくらいで、自分のもんだと思ってやがんのか? 超寒ィわ」
侮蔑を含んだレイチェルの挑発に、ハザマが金色の鋭い眼を覗かせて吐き捨てる。図星だと言っているようなものだが、ハザマにはそれを恥じる様子は見られず、むしろ当たり前のように所有物だと主張した。
それがどこか子供じみていると胸中で思いながら、レイチェルは小さな唇で笑みを形作る。
「下僕は下僕よ。一体誰があの時、死にかけのえいゆうさんを生かしたと思っているの?」
「何恩着せがましいこと言ってんでしょうかね〜、この年増は。テメェに都合がいいから、そうしただけだろーが。あんなアホ犬如きの為にご苦労様ですね、全く」
スサノオユニットによって第二の人生を与えたのは自分だというレイチェルに、ハザマは嫌みを言い放ちながら肩を竦めた。実際、レイチェルにとってはジン=キサラギは『秩序の力』としての存在でしかない。
だがそれはレイチェルはもちろん、ジンにも承知のうえのことだった。
同じ男に、レイチェルは恋慕に似た想いを寄せ、ジンは兄弟としての愛憎を向けたのだ。互いに利害が一致した、ただそれだけのこと。
血を分けてまで、悲劇と知りながら生きながらえさせるレイチェル。過去の己が愚行を清算する為に、ハクメンとして力を振るうジン。
二人に共通するのは、ユニットによる責務と、ラグナへの身勝手な浅からぬ想い。レイチェルが生かし、ジンが殺す。終わりのないループ。
共犯者とも言えるその二人は、しかしあくまで舞台監督に過ぎず、ラグナ自身にその想いを知ってもらうとは思わない。それが、手を組むに至った大きな要因だろう。
……だが、その自慰行為に等しいループは終わりを告げた。
「スサノオユニットを受け入れたのは、えいゆうさんの意思よ。今回の件も同じ。……最後に決断したのは、本人に他ならないわ」
「あらまあ……選択肢のない状況で選ばせるなんて、鬼畜ですよね〜。……ま、ああなったからこそハクメンちゃんに興味が湧いたんですが」
その点については、貴方に感謝すべきですかね?と、酷薄な笑みを貼り付けて、ハザマは小さな少女に投げかける。
そう。ジン=キサラギとしての存在だけならば、目もくれなかっただろう。
兄ばかりに依存した、つまらないガキ。秩序の力としても未熟でお粗末。アークエネミーの支配にさえ勝てない、脆い精神。
本来なら、どこにもハザマが惹かれる要素はなかった。それがどうしたことか、第二の人生でのあの変わり様。
ともすれば別人にしか見えないそれは、しかしまだ甘さと幼さを奥底にひた隠している。それをえぐり出して眼前に突きつけてやった時の反応がまた、たまらないのだ。
ハザマは身を折り、クックックッ…と笑い声をあげた。
「ボッコボコに叩きのめされて、大事なものぜ〜んぶ奪われて。だーい好きなお兄ちゃんは、女と道連れに窯の中! 追いかけて追いかけて、惨めで無様な姿で足掻いて、這いずり回って。それでも立ち上がるさまが、ね……サイコーにそそるんですよッ! 分かりますかね〜、分っかンねェかな〜ッ!? 這い上がったとこ踏み躙って、もっかい地面舐めさせてやりたくなんだよッ! あの英雄さまはよォ!!」
「……下衆ね」
感極まったように叫ぶハザマに、レイチェルは侮蔑の眼差しを向けた。だが、ハザマはその反応を予測していたのか、ますます歪んだ口角を上げる。
「おや、おかしいですね〜。貴女なら共感してくれると思ったんですが。……だって、同じことをラグナ君にしているでしょう? 私達がループを終らせなければ、今も彼は永劫貴女の慰み者でしたからね〜。あら? そう思うと私、申し訳ないことをしてしまいました! せっかく愉しんでたとこ、邪魔しちゃいましたね!? ……まあ同じ下衆同士、ここはひとつお互い様ということで許してもらえませんかねェ?」
ベラベラとよく喋る口から吐き出される言葉に、レイチェルは眉間に皺を刻みながらも呆れた溜め息を吐き出す。もはや何を言っても揚げ足を取られるのだろうと、想像に難くない。
そもそもハザマ……ユウキ=テルミがサヤとジンを攫い、ラグナの腕を切り落とさなければ、レイチェルが助けるという状況に至らなかったのだが。それをもちろん自覚したうえでの、挑発だと分かっている。
しかし。あの時、ひとり泣き叫ぶ少年の前に現れず、生き絶えるのを眺めていれば――何かが違っただろうか。
「……愚鈍で、愚図で、馬鹿みたいに愚直」
「あ?」
「自分の力量も計れずに、目に留まる者全部に手を伸ばして、いつも痛い目をみてボロボロ。なのに学習せず、何度も同じ過ちを繰り返し続ける。……そう、死ぬまで馬鹿なのよ。ラグナ=ザ=ブラッドエッジという男は」
ふっと眉を困らせ、レイチェルは小さな唇から吐息交じりに呟いた。詰る口調に力はなく、ウサギのように紅い瞳は悲哀を滲ませる。
憐れみの中によぎる、情愛。それは単純な言葉で言い表せない感情だった。
何度も何度も繰り返す世界を見続けるうちに、生まれてしまった報われない想いを自覚しながら、レイチェルは不機嫌そうに顔を歪ませるハザマを見遣った。
「あの馬鹿な男が、この世界で何を成していくのか……私はそれを見届けたいだけよ。まあ……お茶を淹れるまでの、余興といったところかしら」
「はァ……そりゃまた、長い余興で」
冗談めかしに苦笑しながら言ったレイチェルに、ハザマは呆れた眼差しを向ける。
黒い帽子のつばを弄って、いかにも不可解だと言いたげな表情を浮かべた。
「そこ。貴女のそこが、前から理解しかねるんですよねェ〜。あんなアホに、なんでまた肩入れしちゃったんです? 貴女の趣味から考えても、およそ真逆な気がするんですが……」
嫌みではなく、本気で怪訝そうに首をひねりながら聞くハザマが、レイチェルを見つめ……ふと視線を従者のコウモリと黒猫へ移した。
開いているのかさえ怪しい細眼で、ふわふわ飛ぶ太いコウモリと巨大な黒猫をじっと凝視する。
「ああ……アホの子が放っておけないタイプですか……」
「こいつ失礼ッス! マジ失礼ッス!」
「あたしまで、この子と一緒にしないでほしいわね〜。アホキャラ枠じゃないわよ」
「姐さんまで、何気にヒドいッス!」
心底憐れんだ表情でそう呟いたハザマに、太ったコウモリが小さい羽根をばたばた振りながら憤慨した。黒猫は、私は違うわよとばかりにそっぽを向く。
それにレイチェルは否定も肯定もせず、左右に流れる金髪の髪を掻き上げた。
「貴方も、人の事は言えないでしょう。英雄さんはともかく……幼いえいゆうさんは相変わらず愚鈍だわ。少しは自覚が出てきたようだけれど、まだまだ乳飲み子同然だもの」
「ああ……キサラギ少佐のことですか? それについては同感ですね。ラグナ君のアホさ加減といい勝負です。……なにせ、このフェイズのジン=キサラギはまだ『敗北』を知らない」
レイチェルの不意の指摘に、ハザマは平静な態度で頷く。
怒るどころかその通りだと言う様にレイチェルは少し意外だと感じたが、ハザマはニィッと口元をつり上げ、猛禽類を思わせる金色の眼を開いた。
「だから……ハクメンちゃんみてェに絶望を味わわせてやんのさッ! ククッ、何のためにあのゴミ女を生かしておいたと思ってやがる? タカマガハラが手に入った今、ゴミ中尉に価値なんてありゃしねェ。英雄さま達をつり上げるエサ以外は、なァ!?」
相変わらず下劣で身勝手な思考回路に、いっそ感心さえする。
レイチェルは笑う男にそんな感想を抱きながら、その一方的な愛憎がどこかの誰かのようだと思った。
「それだけ手間をかけて尚、英雄さんはラグナやココノエほど、貴方を憎んでいないというのが……滑稽な話ね」
薄く嘲笑を浮かべてレイチェルが呟くと、それが痛いところだったのか、ハザマの歪んだ笑みがふと掻き消える。
人を馬鹿にした作り笑いも、下等なものを見下す眼差しも抜け落ち、ハザマは無表情で薄い唇を真一文字に引き結んだ。
真顔になったその反応に、何を望んでいるのかを確信する。
本来の目的を成し遂げる為の過程で、図らずもできてしまった第二の目的。
……この男は、何としてでも『秩序の力』を堕としたいのだろう。目的の邪魔だという以上に、徹底的に叩きのめしたいのだ。
憎んで憎んで、自分だけを見ろ、と。
しかし、ひび割れた仮面の下から覗いた本音を隠すように、ハザマはもとの胡散臭い笑みを貼り付けた。
「そういう貴方も、哀れですよね〜。あれだけ手助けして、そばで見守っていてもラグナ君に気付いてもらえないなんて。姿を現せば『げ、ウサギ!』みたいな反応なんでしょ? 報われないですよねェ〜」
「……それで、いいのよ」
嫌みたっぷりにほくそ笑むハザマに、レイチェルは微笑を浮かべて呟く。
何が何でも振り向いてほしい。その感情が、憎しみであったとしても構わない。むしろ目を逸らせないほど、恨んで欲しい。
ユウキ=テルミがそう考えるのとは対照的に、レイチェルはただ見守りたいのだ。できる範囲での手は施すが、見返りが欲しいわけではない。
もう、そんなことを願う感情さえ摩耗してしまった。長い長いループ、何百何千と繰り返すフェイズの果てに、そういう想いは無機質なものへと変わった。
最後に残ったのは、ハザマと同じ『執着心』。
「この飽き飽きする世界で……それだけ情熱を持てる貴方が、少し羨ましいわね」
怪訝そうなハザマに、レイチェルは皮肉と本音を込めた賛辞を贈った。






END



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単なる、嫁自慢ってだけです←







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