BBテルハク短文・メモ

□スサノオ
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体のーー器の機能が、停止していく。
人間から人形に変わっていく、不快な怠惰感にテルミはため息を吐いた。
「やっぱ……テメェにヤられたか……」
以前から漠然と予期していたことが現実となり、テルミの口端が皮肉げに歪む。
目の前に立つ、白い巨像。長い刃を携える、沈黙の男。
それを、焦点が合わなくなり始めた眼で睨み、テルミは鉛のように重い肺を収縮させた。
「積年の怨み、やっとこさ…成就、ってかァ……?」
さぞかし楽しかろう、と嘲笑をのせるテルミに、しかし白い男は一瞥もくれず。
「其うだな。彼女も又、無念を晴らせたで有ろう」
白い面の下から、くぐもった声が発せられた。彼がどこを見ているかは、のっぺらぼうの仮面から窺い知ることは出来ないが、今誰を思っているかは分かる。
テルミを二重の者……ドッペルゲンガーとして『テルミ』と『ハザマ』を分離した張本人である女。
いや、女だった。今は魂としてのみこの世に留まる、トリニティ=グラスフィールという、かつての戦友。
今のテルミならば、ハクメンだけであれば迎撃できていただろう。しかし、ハクメンとの戦闘に集中して、無防備になっていたハザマの方が彼女に狙われた。
六英雄を散り散りにし、裏切り者に仕立て上げられた愚かなトリニティ。そして、スサノオユニットと融合する以前、大切な女性をなくした未熟なハクメン。
共にテルミに因縁のある存在が、こうして今、テルミの息の根を止めようとしている。
なんとも、滑稽な話だ。
「…私情、挟みまくりの……テメェが、白のスサノオってのが……ホント、笑わせる…ぜ」
今更ながら、ハクメンがハクメンに至る経緯を思い出し、テルミは引きつった笑いを喉の奥から絞り出した。
ハクメンの一撃、『刻殺し』を受けたテルミの体は活動を停止しようとしている。元々、この世界では仮の体を得て存在していた為、体を失うことに恐怖はなかった。
ただ、己の私情を発端としつつ……この世界の抗体として生きる定めを受け入れた男に、トドメを刺されたことが癪だった。
一時的にでも『忘れる』ことができるハクメン……ジン=キサラギには分かるまい。長い長いフェイズを繰り返し、今に至るこの苦労は。
同じ刻を見ながら、諦念の目で傍観する吸血鬼にも、この思いの強さは分かるまい。
テルミのそれは、もはや執念とも言える重さを持っていた。
口端に侮蔑を滲ませるその笑いに、しかし、白い男は僅かに顎を引いた。
まるで、テルミの嘲りを肯定するように。
「……貴様の行動は容認出来ず、存在は許し難い。だが、其の思考は至って愚直で在り続けた。……迷い、悔い、頭(こうべ)を垂れながら刃を振るう私には、持ち得ぬ物だろう」
何処を見ているのか分からぬ顔で、ハクメンは意外な言葉を発した。
事実を述べるように淡々と、だがどこか羨望を含むその声音に、テルミは瞠目する。
今更、一体何を言っているのだろうか、この男は。
「ハッ…、なんだそりゃ…。後悔、してんのか、よ」
力の入らなくなった足を折り、膝をついたテルミは苦々しく笑った。そんな筈はなかろうと言外に含めたそれに、白い男は長い水色の髪を揺らして答える。
「無論。そして、私と道を違えたジン=キサラギを、羨ましくも想う」
真っ正直な吐露。寡黙を好む男の意外な言動に驚くも、テルミは遅れて納得した。
これがテルミと言葉を交わせる最後の機会だと思ったからこそ、ハクメンは胸の内を明かしたのだろう。
燻り続ける疑念、不安、憤り。姿形を違えた後も屈強な身に宿す、やわらかい部分。
触れれば傷つき、指を埋めれば苦悶するその脆いところを、テルミはよく知っている。
そしてだからこそ、予想外だった。最後とはいえ、それを語る口を持っていたことを。
「……だが此れは、己が過ち。己が責務。我が刃にて、過去の怨恨を断ち切る」
くず折れるテルミを見下ろし、ハクメンは全てを振り切るように厳かな口調でそう言い切った。迷いながらも、これからも行動は変わらぬと告げる。
その様にテルミは微かに頭を振り、震える喉でため息を吐いた。
「やっぱテメェ……腹立つわ……」
ああ、本当に腹が立つ。昔から、見ていてイライラする。
眉を寄せながら、こちらに視線を寄越すハクメンをテルミは心底詰った。
そうなのだ。結局この男は、「過去」の為に自分の刃を振るう。それは得てして己の為ではあるものの、これからの「未来」の為ではない。
だからテメェは、損ばっかなんだよ。
吐き捨てようとしたそれは、しかし音にならなかった。もはや喉の機能も失われたらしい。
狭まる視界と急速に襲う意識の白みに、重たい首を下げながら、テルミは何故この男がずっと癇に障っていたのかを、朧げに理解した。
テルミはこの世界を変える為に、前を見ている。
ハクメンはこの世界を護る為に、後ろを見ている。
同じ位置に立ちながら、正反対の方を真っ直ぐに見つめる2人。
視界が違うからこそ、苛立ち、反目し合い、だが意識せずにいられなかったのだ。
白と黒のスサノオ。まるで共通点などないのに、何故か一番近い。
「……眠れ。貴様に引導を渡すのは、猫だ」
意識が沈む直前に掛けられた言葉に、「なんだ、トドメ刺すのはテメェじゃねぇのかよ」と胸中で舌打ちする。
お前が俺を葬るのなら、弱いお前はきっと心に傷を残すだろうに。
ツマラナイ、と声なき声で吐き捨てながらテルミは意識を手放した。



END




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