BBハザジン小説

□C3mの距離
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あーもー、メンドくせェなぁー。
内心苛々としながら笑顔を保つハザマは、書類を持って警備の厳重な区域に入って行った。これでやっと一連の手続きは終了するのだが、思ったよりも随分と手間取ってしまった。
ここ一週間、ノエル=ヴァーミリオンもとい第十二素体の、衛士採用についての根回しをさせられていた。なんで俺様がわざわざ?と言いたいところだが、まだ正体を明かすにはいかないので渋々引き受けたのだ。
しかし手続きがとにかくまだるっこしい、分かりにくい、ついでにたらい回しと、ハザマの忍耐は早々に切れかけていた。特例なんだからもっとスムーズに進めろや、と素で内心悪態をつきながらも最後の手続きを終え、ハザマはやっと自由の身になった。
さて、やっと少佐に……とその前に、クソ猫を放り出さなきゃなんねェな。
久し振りにジンにちょっかいをかけに行こうと思ったハザマは、忌ま忌ましい存在を思い出して舌打ちした。
元々、獣兵衛との関わりから猫は好かないのだが、ハザマの体に憑依してからは特に近付きたくない存在になった。いくら術式に詳しかろうと、人間の体を借りている以上はアレルギー体質はどうしようもない。スサノオユニット、捨てなきゃ良かった…などと身勝手な感想を抱く。
とにかく、ジンがいないうちに執務室に侵入して、猫を放り出してしまおう。息を止めればなんとかなるかもしれない。それでダメならばウロボロスを使ってやる、と大人気ないことを考えながらハザマは師団長の執務室に赴いた。
耳を澄ませて人の気配がないことを確かめてから、ハザマは重厚な扉をそろりと押し開いた。
「………?」
息を止めながら覗き込んだハザマは、無人の部屋を見渡して怪訝な表情を浮かべる。
確か猫を飼うと言ってから、部屋の片隅にケージが設置してあったはずだが、それが見当たらなかった。餌皿もまた消えており、猫自体も見当たらない。
まるで以前の、猫が住み着く前のように戻ったようだった。
本当にいないのだろうか?と訝しみながら、ハザマは室内へと入ってみる。デスクの前まで来て、猫の気配も痕跡も残っていないことを改めて確認し、思わず頬を掻いた。
一体どういうことだろうか。あれ程ジンは嬉々として猫を構っていたのに。
「……猫なら、もういないぞ」
「!」

唐突に背後から掛けられた声に、ハザマは驚く。自分が気配を察知出来なかったことに内心焦りを覚えるが、振り返った先の表情を見て納得した。
部屋に戻ってきたらしいジンは、苦笑を浮かべてこちらを見ていたのだ。警戒心や敵愾心が感じられないそれは、悪意を感知しやすいハザマの感覚に引っ掛かりにくい。つまりそれ程、ジンは友好的な雰囲気を醸し出していた。
最後に見たのは、見下したような冷笑だったはずだが……と記憶を手繰り寄せてハザマは怪訝に思うが、それを指摘して機嫌を損ねさせても仕方がないので、猫はどうしたんですかと至って普通に問い掛けた。
「里親が無事に見つかって、ちょうど昨日引き渡したところだ」
「……そうですか」
あっさりとそう答えたジンは、特にからかっているわけでも、蔑んでいるわけでもない。あれだけ嫌がるハザマに猫を突き付けて面白がっていたのに、どうしたことだろうと内心首を傾げた。
しかも、今まで聞いたことのない言葉がジンから発せられて、ハザマは驚愕する。
「もう仕事が終わったのなら、食事にでも行かないか。ハザマ大尉」
「……え」
一瞬、聞き間違えたかと思った。食事に連れ出すハザマをいつも渋い顔で見ていたジンから、まさか誘われるなど。
思わずまじまじと見返すと、慣れないことで気まずくなったのか、ジンは顔を背けて廊下へと歩き出してしまった。
「都合が悪いなら、いい。忘れてくれ」
「! いえ、そんなことありませんよっ。是非、ご一緒させてください」
青い背中を追うように、ハザマは慌てて部屋を出る。あまりに意外な誘いで思わず反応が鈍くなったが、こんなチャンスはそうそうあるものではない。
しかし不在だった間に一体どういう心境の変化があったのだろうと、不思議に思っていたハザマの方をちらりと振り返り、ジンは歯切れ悪く付け足した。
「お前が来ないと……昼の時間が分からなくてな。今日は食べ損ねた」
だから、美味しい飲茶の店を教えろ。
そう横柄に言ったジンは、恥ずかしいのか目元がほのかに紅い。
それを見て、ハザマはやっと理解した。本当はジンが、自分の存在を嫌がっていなかったのだということを。

正直、鬱陶しそうにしているジンを面白がって纏わりついていたハザマとしては、好かれる事は前提になかった。抵抗してなびかない獲物の方が楽しい、そんな加虐心に溢れたハザマの捩じれた嗜好からすれば、そんなジンの態度は面白くない……はずだったが。
「……ええ、喜んで案内させていただきますよ」
何故か、悪くないと思った。
その感情の動きを、猛獣を手なずけた時の様な快感だろうと、解釈しながらもハザマはにこりと笑って了承する。
それを聞いたジンが、目を逸らせて小さく「そうか」と呟くのを見て、素直じゃねぇーなと感想を抱いたが、そういう態度が妙に幼く見えて可愛いとハザマは思った。



END




今回は少佐がデレました(笑)

ハザマが猫嫌いなのが、猫アレルギーかは分かりませんので、信じないでください;
ただ、猫アレルギーな管理人は、ハザマがレイチェルのナゴをそれ以上近付けるなと言った時に、もしや?とか思ってしまっただけです;

**CS家庭用で猫アレルギーと判明**


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