BBハザジン小説

□Dプレゼント強奪作戦
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まだ眠気を纏う重い瞼を押し上げ、ジンは目を覚ます。仕事で帰りが遅いことが多く、どうしても朝がつらいのだ。それでも目覚ましに叩き起こされる形で、早い時間帯にきちんと起きている。
そんな低血圧なジンが、今日に限って何故か自然と目を覚ました。時計が鳴り響く前に、だ。
今日が休日ということもあって、寝る前にいつもの起床時間より1時間遅くセットしたが、それでも鳴らないうちに目が覚めることは滅多にない。
混濁とした意識の中で自分でも訳が分からないまま、眉間にシワを寄せたジンは、ぼんやりと視界に映る黒い影を見上げた。
「おや。おはようございます、少佐」
「……ッ!!?」
のんびりと挨拶する声と、自分に覆い被さるように顔を近付ける男に気付き、眼を剥く。
事態が全く理解できない。今自分はベッドで寝ていて、ここは自分の家で、今日は休日で……合っているはずなのだが。これは一体どういうことだ。夢なのか?
どうして、ハザマが自分の上に乗っかって挨拶している?
完全に思考がこんがらがり、ジンは視線を右往左往させながら、呆然とハザマを見上げることしか出来なかった。しかしそんな状態のこちらに構うことなく、ハザマは少し残念そうな顔をして見せる。
「惜しいですねぇ〜。なんでいつも起きてしまうんです? 折角イタズラしようと思ったのに」
さらりと不穏なことを宣うハザマに、ジンはもはや言葉もない。
何考えてるんだコイツ。というかコイツは一体何なんだ。神出鬼没にも程があるだろう。
どうやらこの事態、夢ではないらしい。自分を跨ぐ形で乗っかるハザマの体温が、シーツ越しに伝わってきていた。そして全体重ではないが、幾らか重みを掛けられている下半身が圧迫されている。どうやらこれのせいで、寝汚い自分が自然と目を覚ましたようだ。
多少頭が冴えてきたジンは、冷静に現状を把握していきながらへらへら笑う顔をじと目で見つめた。
「何故、僕の家が分かった」
「なんでって、名簿見れば書いてあるじゃないですかぁ〜。しかも社員寮だから、本部と近いですし」
「……どこから入った」
「もちろん玄関ですよォ。警備もろくにない、鍵も単純ときては、無防備過ぎる設備だとは思いますけどねぇ〜」
平然と不法侵入したことを明かすハザマに、ジンは頭が痛くなってくる。本当にこの男、何が楽しくて休日に上司の自宅へ忍び込むのだろうか。

というか、こんな風に跨がられている状況、どう考えても上司だとは思われていない。確かに直属ではないが、一応階級はハザマより上のはずなのだが。
少し前に嫌いではないかもしれないと思ったのだが、思いっ切り気のせいだった。こんな馬鹿な奴、死んでくれて一向に構わない。
「……もう貴様、死ね」
怒りが先立ってきたジンは、シーツから腕を伸ばして勢いよく二本の指を突き出した。それは狙い違わず、ハザマの細い眼にプスリと刺さる。
「痛ァーッ!?」
驚きと激痛で、ハザマが悲鳴をあげた。あんな細い眼でも、刺さることは刺さるらしい。目を抑えてのけ反る姿を見上げながら、ジンはざまぁみろと胸中で呟いた。
「この際、不法侵入は不問にしてやる。だから、さっさと出ていけ」
不機嫌最高潮で吐き捨てると、ジンはのしかかるハザマの両膝の間から足を抜き、ベッドから身軽に飛び降りた。密着していては、何をされるか分かったものではない。
しかし、距離を取ろうと三歩進んだところで、ジンは背後からタックル紛いの抱擁を受けてよろめいた。
「酷いじゃないですか〜少佐ぁ?」
「ぅあッ!? 貴様、もう……ひゃっ!」
早々に復帰したハザマに張り付かれ、ジンは悲鳴をあげた。そして妖しい手つきで腰と腹を撫で回されて、悪寒が走る。やはりこの細目では、目潰しがあまり効かなかったようだ。
今度は肘鉄でも喰らわせてやろうと腕を振り上げかけた瞬間、悪戯な手が服の中へと滑り込んできて、ジンはビクリと体を跳ねさせた。
「少佐って寝る時はスウェットなんですね〜。お陰で手が入れやすいですよ」
「い、入れるな馬鹿ッ! 貴様ホントに、何がしたいんだっ」
「お肌スベスベですねぇ。いや〜若いっていいです」
「いい加減やめ……ぁぅ…ッ」
スルスルと蛇でも入り込むように、ハザマの手が胸元まで滑っていく。他人の手に撫で回される感触に、ジンは怒鳴ろうとした声を呆気なく折られた。もう片方の手が腰骨を撫で、スラックスをずり下げていくのを上から押さえ付けるが、あまり妨げになっていない。
なんとか腕を外そうと爪を立てるジンを嘲るように、ハザマは耳裏に唇を当ててくすくす笑った。
「少佐がいけないんですよォ? あんな酷い暴力振るったりするから」
「! どっちが…ッ! 勝手に入ってきておいて!」

よくもいけしゃあしゃあと……!
厚かましいハザマの態度に怒りを覚えながらも、動きが読まれているかのように、攻撃しようとした腕を掴まれてしまう。
思わずジンが肩越しに振り返って睨むと、至近距離で笑うハザマが、捕らえたジンの手にチュッと音を立てて口づけた。まるで女性にするような、そんな仕草に頬が熱くなる。好き勝手に体を触られていることよりもそういう行動の方が、なんとも言えない恥ずかしさが込み上げた。
怒りと羞恥をないまぜにして、ジンが唇を噛み締めて睨むと、ハザマは不意に苦笑を浮かべた。
「まさか、今日に限って少佐がお休みだなんて思わなかったものでねぇ〜。お陰で有休取ってまで来ちゃいましたよぉ?」
「……? なんだ、今日は何かあったか?」
少し勿体ぶった言い方をするハザマに、ジンは片眉を跳ね上げる。やり残した仕事でもあっただろうかと思わず考えたが、その思考を読んだようにハザマが、違いますよと囁いた。
じゃあ何なんだと視線で問うと、満面の笑みで迎えられる。胡散臭いほど爽やかなその笑みに、なんだか嫌な予感を覚えた。
「今日は私の誕生日なんですよ! もちろん祝ってくれますよね、少佐♪」
「……」
告げられた言葉はあまりに予想外で、一瞬意味が分からなかった。
誕生日? それが上司であるはずの自分が、朝から不法侵入とセクハラを受ける理由になるというのか?
――否。
ジンは肺の奥まで息を吸い込み、両腕を引き絞った。握った拳がミシリと軋むほどに、力を入れる。
「ふざけるな貴様ァーッ!!」
「ゲファッ!?」
怒号と共に放った両腕の肘鉄が、ハザマの脇腹に見事ダブルヒットした。





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