●怖い噺 六


□金魚
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当時まだ1才だった娘を連れて夏祭りに行った時の話です

屋台を見ていると金魚すくいがありました
娘にも何か生き物に触れて欲しいと思い、何回か失敗しながら1匹の金魚を取って帰ったのです

金魚鉢に入れて部屋に置くと、娘は珍しいのか近寄っていって中を眺めています

まだ言葉を話せないのに金魚と合わせて口をパクパクさせて、まるで会話している様でした
かわいいなと思っていた途端、何故か娘が火がついたように泣き出したのです

赤ん坊ですからよくあることなんですが、いくらあやしてもなかなか泣き止まず、理由もわかりません

その日から娘は、絶対に金魚に近づかなくなりました
無理に近くに連れて行っても、泣き出して離れてしまうのです

特に気にも留めていなかったのですが、ある午後
娘の昼寝中に部屋で一人ぼーっとしていた時、ふと金魚と娘のことが気にとまりました

この金魚、何か変なところでもあるのかしら?

そう思って、金魚鉢を覗き込んだんですが、金魚はただ口をパクパクさせるだけ

かわいいものだと見つめていたその時、何気なく部屋の電気で反射して金魚鉢に映ったものを見て
私は全身の毛が総毛だつのがわかりました

そこには私の顔と部屋の景色と、それから、私の右肩から覗く知らない男の人の顔が映っていたのです

そして何より驚いたのは
鉢の中の金魚のパクパクという口の動きと、その男の人の口の動きがまったく同じだったこと

あの金魚は一体なんだったのか
金魚鉢に映った男の人は誰だったのか

近くの川に金魚を放してからもう5年たちますが、未だに金魚を見るとあの男性の顔を思い出します

−終わり−

そろそろ金魚すくいの季節ですね…

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