●怖い噺 八
□カワミサキ
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知り合いの話
盆で田舎に帰った折、家族で川遊びに出かけたのだという
河原にシートを拡げており、年長者はそこで食事を摂ったり休んだりしていた
小さな従姉妹の面倒を見るのは彼の役目だったらしい
水に浸かって遊び相手になっていると、突然、身体から力が抜けた
全身がひどく疲れた感じになり、立っているのも辛いほどだ
動けなくなる前に、従姉妹の手を引いて、一緒に川から上がることにした
シートまで辿り着くと、大きな息を吐いて倒れ込んだ
家族が口々に「どうした、顔色が悪いぞ」と話し掛けてくる
答えるのも億劫になっていると、従姉妹がこちらを見つめながら、妙なことを言い出した
「お兄ちゃん、なんでそんなお婆ちゃんを背負っているの?」
何でも彼の背中に、見覚えのない皺だらけの老婆がしがみついているのだと言う
ギョッとして背後を確認したが、誰も背中には乗っていない
その時、祖父が彼に向かって、思い切り塩を振りまいた
途端に身体が軽くなり、あれだけあった疲労感が嘘のように消え去る
同時に従姉妹が目を丸くして大声を上げた
「お婆ちゃん、消えちゃった!?」
驚いて言葉も出ない彼に向かい、祖父はこう述べた
「カワミサキに憑かれたんだろうよ
人に取り憑いて衰弱死させるっていう、いわゆる死霊みたいなものだ
お前ら、今日はもう水に入るんじゃないぞ」
仕方なく、遊びの続きは河原ですることにした
その後は帰宅するまで、誰もあの奇妙な疲労に襲われることはなく無事に過ごせたのだそうだ
−終わり−
死霊には気を付けないと…