●怖い噺 五
□開かずの間に住むもの
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うちの会社には開かずの間がある
嘘みたいなほんとの話で確かにある
会社は3階建て。その3階の端に資材倉庫がありその倉庫の奥に扉が設置されている
新人の頃、資材を取りに倉庫に行った際にドアの存在に気付き当時の先輩に聞いてみたが「気にすんな。」の一言で片付けられた
会社の外から見てわかったが、そのドアの先には部屋があるようで窓も付いている。常にカーテンが閉められていて中は見えないが不思議に感じたがまぁ倉庫の一部だろうと思っていた
1ヶ月ほど前我が部署に新人のKが配属された。4月からの研修を終え正式に配属されてきたピカピカの一年生。新人ということで俺の時と同じように色々と雑用を頼まれることもある
ある日その新人のKが俺に質問をしてきた
K「○○さん(俺の名前)あの、この前資材倉庫に行ったんですけど…」
ピンときた
俺「あぁ、あの扉のことか?」
K「そう、そうです。何ですかね?あの扉。奥の部屋も倉庫なんですか?」
俺と同じだなんだか微笑ましい
俺「あれな、俺もよく知らないんだ。昔俺も先輩に聞いてみたら気にすんなって言われたよ。」
K「そうですか…あれカギ掛かってるみたいなんですが倉庫のカギで開くんですかね?」
俺「どうだろうな。試したこと無いけど。倉庫なら開くんじゃないか?」
K「うーん…今度行ってみるかな。」
なかなか好奇心旺盛なヤツだ。俺も何か気になるので中に何かあったら教えてくれよと言っておいた
その翌日またKがやってきた。
K「○○さんダメでした。あれ、倉庫のカギじゃ開きませんよ。」
どうやらあの後すぐ開けに行ったらしい
俺「そうかダメか。じゃあ別のカギがどこかにあるんだろうな。」
K「いえ違うんですよ。あの扉こっちからは開けられないみたいなんです。」
俺「ん…?」
K「カギは掛かってるみたいなんですがこっちからのカギ穴なんて無いんですよ。」
俺「な…?じゃああれか?内側からカギが掛かってるってことか…?」
K「そうなりますかね…」
嫌な悪寒を感じた
内側から掛かってるカギということはどうなる?
カギを掛けた何者かがあの部屋に居るってことか…まぁあり得ない構造ではない。でも何か引っ掛かる
K「何ですかねぇ。誰か専用の個室なんですかねぇ。」
俺「まぁ閉じ込められてるって訳じゃないしそいつの意思で自由に出入りはできるからな。」
と言って自分で気付いた
K「そうですねぇ。自閉症か引き篭もりの人でも居るんですかね〜。」
俺「いや待て、おかしいな。」
K「何がです?」
俺「その扉はそいつが開けられるとしても…あの倉庫、内側からカギは開けられないだろ。」
全く不可解だ
奥の扉は内側から開けられるが、倉庫自体の扉は開けられない。倉庫のカギは資材を取り出す時以外は常に閉めることになっている
つまりそいつは倉庫に閉じ込められていることになる
K「あ…そうなりますね。そうだそれに…あの部屋夜外から見ても明かり点いてたことないですよね。」
そうだ確かに。残業で夜遅く帰るときでもあの部屋から明かりが漏れていたことなんてない。カーテンの隙間はあるのに。
K「気になりますね…ちょっと調べてみましょうか。」
俺「うーん、まぁほどほどにな。」
翌日から俺は出張だった
ユーザーにペコペコ頭下げて接待しつつマズイ酒を飲んで本社に戻ってきたのは3日後だった
帰ってきた俺が聞いた最初のニュースはKが会社に来ないという話だった
そしてその翌日聞いたのはKが1人で暮らしてるアパートにも居ないという話だった
実家にも帰っておらず結果Kは行方不明となった
当然俺はあの倉庫の扉が気になった
しかし出張から帰りたてで書類整理に忙しかった
それで気付くのが遅れた。出張に行った翌日Kからメールが来ていた気付いたのは帰ってきてから3日後だった
出張先でも特定の送信者からのメールは受け取れるようにしているがKは新人であったため受け取る対象にしていなかった…まぁ言い訳だ
メールは一文だけでこう書かれていた
K『あきました』
あれから数週間経つがKはいまだに見つかっていない
俺はもう倉庫には行かないようにしている。あの扉が原因なのかどうかは分からないが何か関わっていると俺は確信している
先日、昔俺が扉のことを聞いた先輩に会った今は支社に勤めているので会うのは数年ぶりだった
俺はKの話をしてみた。すると先輩は扉のことを教えてくれた。要約するとこんな感じだ
・10年くらい前にも扉に関心を持った社員が行方不明になっている(先輩の同期らしい)
・ここは場所が悪い。霊が集まり易い場所だと聞いたことがある
・会社の設立時、特別な部屋を作りそこに“何か”を置き誰も入れないようにした
・何が置かれているかは知らない。社長は知ってるかも?(当然聞けない)
御神体だとか、怪しげな壷だとか、中には生贄を捧げたなんて噂もあった
話を聞いて俺は疑問に思ったことをぶつけてみた
俺「なんで扉を付けたのでしょう?」
先「部屋なんだから扉がないとおかしいだろ」
最もなことを言われた。確かに“部屋”というものならそれは必要かも知れない
更にもう1つ聞いてみた
俺「じゃあ窓は?なくてもいいですよね?」
先「・・・」
先輩はしばらく黙ってしまった
そして、こう答えてくれた
先「誘き寄せるには必要なんだろ。お前、もうあの窓見るなよ?何か見えても見なかったようにしろ…な。」
俺の頭にはあの窓からKが呼んでいる絵が浮かんだ
窓側の道を通るたび俺は視線を感じる
いつか見上げてしまいそうな気がする
耐え切れず俺は転勤願いを出すことにした…先輩と同じように
−終わり−
皆さんは開かずの間には近付かない様に
だって当たり前でしょ…出てきて欲しくないものが入っているから開・か・な・い