●怖い噺 五


□8周目
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俺には幼馴染の女の子がいた。家も近くて親同士の仲も良く俺とその子も同い年ってこともあって小さいうちから一緒に遊んでた

まぁだいたいそういう関係ってのは歳をとるにつれて男の側が気恥ずかしくなって疎遠になってくものだけど例に漏れず俺もそうだった。小学校の高学年ぐらいになると道ですれ違っても「よう」「やあ」ぐらいのあっさりした関係になってた

でも中学2年のときの夏休みその子が突然うちに来た。とうもろこし持って。たぶん向こうの親にうちに届けるように頼まれたんだろう。俺はそう思ったし、向こうもそんな雰囲気だった

あいにくその時うちの親は外出してて俺一人だった。とうもろこしもらってハイさよならってのもなんだかなーと子供ながらに気を利かせて「あがってく?」と彼女を家に入れた

麦茶を出してまぁあたりさわりのない会話をした。担任がどうとか夏休みの宿題がおわんねーとか。だんだん打ち解けた雰囲気になってきた時彼女が不意に「今度○○神社行かない?」と言い出した

○○神社はうちから自転車で10分ぐらいのところにあって周りが木々で囲まれてて昼でも薄暗い用がなければあんまり入りたくないところだった。当然俺は「え、なんで?」みたいな感じで聞き返した。そしたら彼女は
「あ、怖いんでしょ。」とちょっと馬鹿にしたような顔で笑いながら俺をみてきた

そーなると「そ、そんなことないやい!」的なノリになり、まぁ結果的に彼女の術中にはまってしまったわけで。さすがに夜は怖いんで何とか理由つけて次の日の昼間行くことにした

当日。現地集合ってことで俺が神社に着くと彼女はもう着いてて俺を待ってた。真っ白いワンピースと真っ白い帽子。普段絶対しないカッコで恨めしそうに石段に座ってた「おっそーーい」昨日とはうって変わってフレンドリーな第一声をもらいつつ神社の前まで二人で歩く。石段を登る途中彼女は俺にいきなり「A君は、霊って信じる?」と聞いてきた

普段しないようなカッコで人気のない神社に誘われ。多少なりとも別のことを想像してた俺は安心半分がっかり半分ぐらいの気持ちで「信じるわけないじゃん」と即答

「じゃあ今日で信じるようになるかもよ?」ととんでもない事を言い出す彼女
「私、霊とかそーいうの好きなんだ」おいおい電波ですか
「会いやすいように白ばっか着てきたんだ」そーゆーことですか

唖然としながらとうとう神社に到着。快晴ならまだしも、ご丁寧に石段を登り出したあたりから曇り出し嫌な暗さの神社一帯

「じゃあ始めようか?」大きな目を更に大きく開いて彼女が笑う。彼女が言うには神社の周りを二人が取り囲むように走って回る。二人の合流地点ですれ違いざまに霊が見えるといううわさがあるらしく実験の相手を探してたんだと

「1周ぐらいだと見えるかどうか微妙らしいんだけど…」けど何ですか

「8周回ると二人とも連れて行かれちゃうんだって」勘弁してくれ

とはいえ男と女、幼馴染、同い年。断れない条件は揃っている。引いたら負けだ。という心理には勝てず結局やることに

神社の入り口を出発点に互いに時計、反時計回り。ちょうど神社の裏に松の木が生えていてそのへんが合流地点となる

「行くよ…よぉーいどんっ!」なんでそんなに明るい

内心半ベソ状態で走り出す。神社の脇を抜け松の木へ。反対側から彼女が走ってくる。手を振ってるし笑ってる。周りには何も見えない。霊の姿なんてどこにもない。彼女とすれ違いざま彼女の「全然(見えない)」という声だけが聞こえた。1周目はつつがなく終了

そのまま2周目、3周目に突入。1周目で何も見えなかったこともあり俺も心に余裕ができ向かってくる彼女に手を振ったり「いねーじゃん!みえねーじゃん!」と笑いながら叫んだりしていた

対照的に彼女は2周目、3周目と数を重ねるごとに笑顔が消えすれ違うときも無言になっていた

「このぶんだと、8周したって全然大丈夫」そう思いながら迎えた7周目。彼女が俺とすれ違う瞬間強烈なラリアットを俺にかました

不意の急襲に喉をやられ悶絶する俺。彼女は苦しむ俺の手を強引に引っ張り「早く!」と神社から逃げるように走り出した。わけもわからず一緒に走る俺。石段を下り終え止めた自転車もそのままにして更に走る

神社が見えなくなったあたりで彼女はようやく足を止めた

喉の痛みと走ったあとの息切れが収まりようやく彼女に文句を言った「何でラリアット」

彼女が答える「見えてなかったの?」

は、何がですか?別に何もと答える俺。彼女は首を振りながら

「A君の後ろ、2周目あたりから手とか顔とかが追いかけてきてたの。だんだん数が増えてって…7周目にはA君に絡みついてた。A君がそんなだったから8周目はやめとこうと思って。」

もし8周してたら…と俺がつぶやくと同時に俺の背後から小さく「ちくしょう…」呻くような声がはっきり聞こえた

その声を聞いたかどうだか彼女は「私はともかくA君はやばかったね。家帰ったら背中みてみな?」と笑った

彼女に言われるまでもなく帰ったとたん母親に「あんた、どーしたのその背中?」

どーしたもこーしたもシャツには手形がびっしり。その一件以来彼女にはいろいろと協力をさせられている

−終わり−

遊び半分で黄泉の門は開いちゃだめだよ♪

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